彼が買ったのは、極めてノーマルに近い希少な個体。1996年式・走行約10万kmながら、ヘタッた部品を交換するなどしっかり整備されていたため、価格は約100万円と平均相場の2倍だった。ネット上に掲載された写真や諸条件に一目惚れし、わざわざ飛行機に乗って宮崎県まで買いに行ったという。
私もチョイ乗りさせてもらったが、コンディションの良さもあって、軽くてダイレクトで優しい乗り味は、現行モデルに色なかった。加えて20年の歳月の重みがジワリと効く。木造の校舎に感じるような郷愁で胸がいっぱいになる。
ヘッドライトのスイッチをひねると、丸目がパカッと持ち上がった。そう、ロードスターはこの初代だけ、格納式のリトラクタブルヘッドライトなのだ。持ちあがった両まぶたを見ながら運転していると、昔大好きだった曲を聞いたときみたいに、目の奥に熱いものを感じた。
オッサンにとって、最新である必要は特にない。むしろ古い方にこそ価値があるのかもしれない……。
※週刊ポスト2016年5月27日号