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我が子は発達障害児 「母親の告白」をどう評価するか

 子供がほしくてたまらなかった1975年生まれの山口かこ氏の娘が発達障害児で、その療育に悪戦苦闘したという実話である。書籍の執筆時の職業はフリーライターだが、子育て時代は、ミュージシャン志望だった勤め人の夫の妻で、専業主婦をしていたらしい。というか、娘の「かんしゃく」がひどく、その世話で手いっぱいだったのである。

 専門医を受診したのは、娘が2歳7ヶ月のとき。診断は「広汎性発達障害」。「社会的な対人関係を築くのが難しい」「コミュニケーションがとりづらい」「興味の幅が狭くこだわりが強い」という3つの特性があらわれていた。知的な遅れは認められなかったが、医師から〈一生を通して「変わった人」という雰囲気は変わりません〉と告げられ、かこ氏の苦悩が本格化する。

 これより先は、あまりネタバレにならないよう、文庫本の裏表紙にある内容紹介文から引用する。こう書いてある。

〈不妊治療や流産を乗り越え、ようやく授かった娘は広汎性発達障害だった。療育に奔走するが、わが子と心が通い合わない事に思い悩み、気づけばいつしかウツ状態に。チャット、浮気、新興宗教……現実逃避を重ねる中、夫から離婚届を突き付けられてしまう〉

 娘が6歳のときに、かこ氏と夫の離婚が成立している。夫が娘を引き取って遠い実家へ。以降、母子は数か月に一度のペースで会う関係になっている。離婚原因は、〈部屋は散らかしっぱなしでおかずは手抜き〉〈表向き「お母さん」を演じてるだけで家庭放棄も同然の私〉の非にある、と著者のかこ氏は書いている。

「不倫に走った上で育児放棄した女の話で最低!」と文庫化前の書籍に対する読者レビューには、星1つの罵声系が相当多い。そして、それと同数以上に、星5つで「発達障害児の親の思いを代弁してくれた!」と絶賛するレビューが並ぶ。

 私の感想は星5つだ。潔癖なモラリストは許せないかもしれないが、彼女はものすごく頑張ったのだ。浮気や新興宗教に逃げずにはいられないほど、かこ氏は療育ママ生活に疲れ果て、そして孤独の限界に追いやられていた。その内面を詳細に描き出した本書で、「私だけではなかったんだ……」と救われる読者は幾らでもいるだろう。だから価値ある一冊なのだ。

 かこ氏の苦悩は、娘の「心」が見えないことにあった。彼女は、離婚し娘を手放すことを是とした回想シーンで、こう激白している。

〈「自分のことしか考えていない」って!? うるさい!! 発達障害さえなけりゃ私だっていいお母さんになってたよ!!〉

〈「世の中にはもっと重い障害や病気の子どもを持つお母さんもいる」って!? うるさい!! うるさい!! 私は“普通の家族”が欲しかったんだ!!〉

 そう、変わり者のお母さんとのひとり親家庭で育った彼女は、強く「普通の家族」を求めていた。娘や夫と「心」が通じ合う、「平凡な家庭」が欲しくてたまらなかった。なのに、頑張るほど一人ぼっちになってしまう。「普通」や「平凡」を求めるあまり、そこから外れた過剰や欠落を受け入れられない。

 普通が一番、平凡が一番、と人は言う。私も、歳を重ねるほど、たしかになあと思う。しかし、その小さな願いをあざ笑うかのように跳ね返す壁が、現実世界にはいくらでもある。

 結婚生活を続けるということは、配偶者と「心」が通じ合わないポイントを収集することと同じだったりする。魔の二歳児に始まって、反抗期に、受験期に、親離れ期に、子供の「心」がどんどん見えなくなっていくのが子育てでもある。実の親との関係もそうで、介護はまさに、見えなくなる親の「心」を目の当たりにする壁だ。

 発達障害児の親のみならず、『母親やめてもいいですか』に「あるある」と共感する人はたくさんいるだろう。「普通」や「平凡」は求めるほどに逃げて行くものであり、見えていたかに思っていたヒトの「心」は見えなくなるのである。そんな理を受け入れ、それでも生きる楽しみを見つけていくことが、人間の成長だと思うのである。

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