「天知さんは面白い人だった。天知さんも僕のことを好きでいてくれて。苦虫を噛みしめたように眉間に皺が寄るのが魅力だったけど、普段は気さくでね。面倒見がよくて、兄貴分みたいな感じだった。僕が博打で捕まって苦労している時、キャバレーで公演してたらゲストで来て歌ってくれたりもした。
芝居に関しては、何も言わなかった。僕がその場で面白い芝居をすると笑ってくれて、『それはいいね』と言うような人。だから自由にやらせてもらえた。
やはり喜劇的な芝居を入れてドラマを膨らませないと。ただのニヒルな感じだけでは面白くないから。でも、あざといことは一切しなかった。ギャグっぽいことをすると作品が全て崩れてしまうから。ただ、作品によっては使い分けることもあるよ。
それこそ、ワンシーンしか出番がないような役の場合はインパクトを強くしないと出ている意味がなくなってしまうから」
『非情のライセンス』には上司役で山村聰が出演している。
「山村さんは重みがあって良かったよね。僕が何かやるとクスっと笑う。でも、芝居としては絶対にこっちに交じってこない。
あの人、撮影所に来る時は二時間前には来てるんだ。で、僕はよく渋滞に巻き込まれて遅刻していたんだけど、その時は『君ね、もうちょっと早く起きてきなさい』って。二、三回は怒られたんじゃないかな。
山村さんは大見得を切る芝居をする。あの人がいるといないじゃ作品が全く違う。そういう存在感ある役者になりたいよ」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』(文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』『市川崑と「犬神家の一族」』(ともに新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
■撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2016年6月3日号