国際情報

中国にバイト代10円のネット書き込みで政府支持を担う人も存在

 中国建国の指導者であり、40年前に世を去った毛沢東の存在感が不可解なほど強まっている。その震源地は、中国政治の奥の院である中南海だ。ジャーナリストの野嶋剛氏がレポートする。

 * * *
 今日の最高指導者・習近平は、ことのほか毛沢東に対する尊敬や模倣を口にするようになっており、大衆の毛沢東への思慕と共鳴している。

 文化大革命によって中国に多大な災難をもたらした人物を再び、中国政治の祭壇に持ち上げ、自らと同一化しようとする狙いはどこにあるのか。

「小粉紅(シェオフェンホン)」と呼ばれる一群が、中国のネット社会で、不気味にうごめいている。

 彼ら、彼女らは「90後」「00後」と呼ばれる10代、20代の若いネットユーザーで、とにかく共産党政府を一方的にもり立て、政府に敵対する者には立ち向かうことを、ある種の行動原理にしている。

 先の台湾総統選では民進党・蔡英文のFacebookへの大量アクセスだった。民進党の「独立志向」に対して下品な罵声を浴びせ、台湾の人々を驚かせた。

 中国の政府・軍の指揮下にあり、海外の要人やメディアにハッキングなどを行ってきたのは当局と関係の深い「網軍」と呼ばれるネット部隊だ。

 その「網軍」のもとで、中国版ツイッター「ウェイボー」などで一ツイートごとにわずかな報酬(五毛=10円程度)のバイト代で政府への支持と問題発言への告発を担う民間のネットユーザーは「五毛(ウーマオ)党」と呼ばれる。

 しかし、この小粉紅は「仕事」ではなく、ボランティアで政府、そして、習近平を持ち上げている。自然発生的に成長を続ける小粉紅を、文革で毛沢東の権力の源泉となり、中国社会を震撼させた「紅衛兵」の現代版になぞらえる向きがあるのも無理はない。

 小粉紅の登場が象徴するように、習近平の毛沢東化がささやかれている。党務、外交、国防などあらゆる領域を掌握し、党内には毛沢東回帰と取られかねない旧時代的で保守的な指示を連発。

 官製メディアにも躍る「習大大(シーダーダー/習おじさん)」の愛称。ネットには習近平を讃える歌や詩があふれる。毛沢東以外、鄧小平でも江沢民でもやろうとしなかった「個人崇拝」という禁断の領域に、習近平はあえて足を踏み入れようとしているのだろうか。

●のじま・つよし/1968年生まれ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。1992年朝日新聞社に入社。シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月よりフリーに。主な著書に『ふたつの故宮博物院』『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』など。

※SAPIO2016年6月号

関連キーワード

トピックス

マムカ司令官
【ウクライナの戦場取材でYOASOBI】報道カメラマンがウクライナで戦うジョージア部隊「世界初の最前線取材」の許可を得るまで ドーベルマンとフィアット500に乗り、車内で『夜に駆ける』
NEWSポストセブン
1990年代、多くの人気バラエティ番組で活躍していたタレント・大東めぐみさん
《交通事故で骨折と顔の左側の歯が挫滅》重傷負ったタレントの大東めぐみ「レギュラーやCM失い仕事ほぼゼロに」後遺症で15年間運転できず
NEWSポストセブン
ポータブルトイレの大切さを発信するYoutuber・わさびちゃん
「そもそもトイレの話がタブー過ぎる」Youtuberわさびちゃんが「トイレ動画」を公開しまくるようになったきっかけ「芸人で恥ずかしいこともないし、夫に提案」
NEWSポストセブン
1990年代、多くの人気バラエティ番組で活躍していたタレント・大東めぐみさん
《事務所が猛反対もプロ野球選手と電撃結婚》元バラドルの大東めぐみ、人気絶頂で東京から大阪へ移住した理由「『最近はテレビに出ないね』とよく言われるのですが…全然平気」
NEWSポストセブン
全国で車中泊をしているわさびちゃん夫婦。夫は元お笑い芸人のピーチキス・けん。
YouTuber・わさびちゃんが「トイレ動画」でバズるまでの紆余曲折「芸人時代に“女”を求められたり、男性芸人から嫉妬されたり…」
NEWSポストセブン
悠仁さまに関心を寄せるのは日本人だけではない(時事通信フォト)
〈悠仁親王の直接の先輩が質問に何でも答えます!〉中国SNSに現れた“筑波大の先輩”名乗る中国人留学生が「投稿全削除」のワケ《中国で炎上》
週刊ポスト
「ビッグダディ」こと林下清志さん(60)
《借金で10年間消息不明の息子も》ビッグダディが明かす“4男5女と三つ子”の子供たちの現在「メイドカフェ店員」「コンビニ店長」「3児の母」番組終了から12年
NEWSポストセブン
リシェット
戦場取材に欠かせない「フィクサー」とは? ウクライナ入りした報道カメラマンが紹介された“取材に愛犬を連れて来る男” ギャラは「1日1500ドル」と法外な金額に
NEWSポストセブン
女児盗撮の疑いで逮捕の小瀬村史也容疑者(37)。新たに”わいせつ行為”の余罪が明らかになった
「よくタブレットで子どもを撮っていた」不同意わいせつ行為で再逮捕の小瀬村史也容疑者が“盗撮し放題だったワケ” 保護者は「『(被害者は)わからない』の一点張りで…」
NEWSポストセブン
成年式を控える悠仁さまと第1子を出産したばかりの眞子さん(写真・右/JMPA)
眞子さん、悠仁さまの成年式を欠席か いまなお秋篠宮家との断絶は根深く、連絡を取るのは佳子さまのみ “晴れの日に水を差す事態”への懸念も
女性セブン
「ビッグダディ」こと林下清志さん(60)
《多産DVを語ったビッグダディ》「子どもができたら勝手に堕ろすんじゃないぞ」4男6女の父として子供たちに厳しく言い聞かせた理由
NEWSポストセブン
ボニー・ブルーとの2ショット(インスタグラムより)
《タダで行為できます》金髪インフルエンサー(26)と関係を持った18歳青年「僕は楽しんだから、被害者になったわけじゃない」 “捕食者”との批判殺到に反論
NEWSポストセブン