そんな状況下、再雇用希望者に追い風となる判例が出た。定年後、1年契約の嘱託社員として再雇用されたトラック運転手3人が「定年前と同じ仕事をしているのに年収が3割減ったのはおかしい」と会社を訴えた裁判だ。
5月13日、東京地裁は〈特段の事情がなければ、同じ業務内容で正社員と再雇用後の嘱託社員の間に賃金格差があってはならない〉として、この運転手らの訴えを認め、会社側に定年前の給料との差額分、計約400万円を支払うように命じた。これは2013年に労働契約法の改正で追加された20条の条文(※)に照らして判断された。
【※/有期契約労働者と期間の定めのない労働者(いわゆる正社員)の間の「不合理な労働条件の違い」を禁止した】
労働者にとっては心強い判決といえるが、前出の稲毛氏は「この判決を機に、再雇用後の給料を定年前と同じにするのが一般的な流れになるかどうかは怪しい」という。
「あえて定年前とは違う業務で再雇用することで、労働契約法20条違反を回避する動きが出ているからです。今後は『慣れない仕事に変わったうえに給料も下がった』と疲弊する人が増えて、65歳前に自分から再雇用を断念せざるを得なくなるケースが続出する可能性があります」(稲毛氏)
定年延長でも老後破産のリスクが減らない現実──。もちろん65歳まで健康で働き続けられることは喜ばしいが、老後に理想の生活を送りたいなら、従来通り60歳で一旦“現役気分”を捨て、節約生活をスタートさせることが大切だ。