プロ野球は勝つことが最終目標。しかし少し事情が異なる組織がある。それが二軍だ。一軍選手の調整、故障者のリハビリに、若手の育成。これを成績と両立させる。その難題に今、往年の名選手が挑んでいる。
巨人は、今季から11連続完投勝利の日本記録を持つ“ミスター完投”斎藤雅樹氏が就任した。背番号77。V9時代を指揮した川上哲治監督の栄光の背番号だ。
「一軍はコンディションも含め気持ちよくやらせることが重要。でも、二軍には育成という大きな役割がある。試合をするからには勝ちに行くが、すべて勝利にこだわっているかといえば違う。投手交代が必要な場面でも、成長させるため我慢して続投することもありますね」(斎藤監督)
二軍から一軍に上がるため、斎藤監督は個々に違った課題を求める。
「例えば岡本和真は三振を怖がらず本塁打が打てる主軸打者を目指さなければならない。橋本到なら1、2番として追い込まれても粘って出塁することが求められる。一軍でプレーするため、求められるものを個々で自覚してもらいたい。そのサポートをするのが我々の仕事です」(同)
巨人は今季から育成選手を中心とした三軍が誕生した。これで「選手に目が行き届きやすくなった」という。
「選手に競争心が芽生えたことも大きい。結果が出なければ支配下選手でも三軍へ行くことになるし、結果を残せば育成選手が二軍に上がれる。いい刺激になっています」(同)
現役・指導者を含めてプロ32年目となる斎藤監督。今年のイースタンリーグの開幕前、選手を前に「こんなに開幕が楽しみなのはプロに入って初めてだ」と挨拶をした。
「偽りない本心です。今の選手たちは早朝から深夜まで野球漬けで、本当によく練習する。どんな野球をしてくれるかキャンプの時から楽しみでした。練習しなくて須藤(豊・二軍監督=当時)さんに怒られていた僕とは大違いですよ(笑い)」(同)
【さいとう・まさき】1965年、埼玉県出身。1983年に巨人に入団。先発の柱として沢村賞を3度獲得するなど、主に1990年代の巨人を支えた。2001年に引退後は長く投手コーチを務める。生涯成績は180勝96敗、防御率2.77
●取材・文/鵜飼克郎 撮影/渡辺利博
※週刊ポスト2016年6月24日号