お前以外に誰が継ぐんだ、という父の言葉に、私への信頼を感じました。赤字を理由に断るのは、肉親のすることではありません。父には作品を書くことに専念してもらいたいという思いがありました。
それから数か月間は、疎遠だった時を取り戻すかのように、父と濃厚な時間を持ちました。ほぼ毎晩、帰宅した11時過ぎから時には朝まで、こまつ座のことについて父と電話で語りました。膨大な父の言葉は“こまつ座を継続することの意味”を私の体に染み込ませる儀式だった気がします。
井上ひさし戯曲の再演はこまつ座の大きな柱ですが、父が最後に取り組んだ、沖縄戦を題材にした戯曲『木の上の軍隊』を若い作家が完成させ、2013年に初演。今年11月に再演が決まっています。新作の上演、父の原作の映画化も続いています。
父が亡くなって6年。私が生きる上ですべての源に父がいる、父は私にとって“ふるさと”のような存在です。
お父さん、こまつ座は続いてますよ、そんな私の声に「麻矢、よくやっているな」と、父の言葉が聞こえる気がします。本当はもっと話をしたかった、新作をもっと書いてほしかったけど。
お父さん、これからも私を守ってください。
【プロフィール】
井上麻矢/1967年、東京生まれ。高校在学中に渡仏。語学学校と陶器の絵付け学校に通う。帰国後、スポーツ新聞社やリゾート宿泊施設を運営する会社でギャラリーを企画。2009年7月、劇団こまつ座の支配人に。11月より代表取締役社長に就任。
※女性セブン2016年6月30日号