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2016.06.24 16:00  週刊ポスト

【著者に訊け】デビット・ゾペティ 感動作『旅立ちの季節』

スイス生まれのデビット・ゾペティ氏

【著者に訊け】デビット・ゾペティ氏/『旅立ちの季節』/講談社/1400円+税

 初小説『いちげんさん』から20年、来日からは30年が経ち、もはや押しも押されもせぬ、日本の小説家だ。言葉や文化の違いを軽やかに越境するかに見えて、何がその人や国をそうあらしめているかを冷徹に観察するデビット・ゾペティ氏(54)が、約4年ぶりの新作『旅立ちの季節』で題材に選んだのは、なんと〈終活〉。確かに私たち生者にとって死ほど未知の領域もなく、その越境は誰しも避けられない最大の難関ではある。

 主人公は最近海上保安庁の航海士を正式に退官した〈楠木健太〉、64歳。唯一の肉親である姪の〈理沙〉や、フィンランド人の父と日本人の母を持つその夫〈ペッカ〉からも、立場に関係なく〈ボースン〉(甲板長)と親しまれる、海の男だ。

 60で定年を迎えたものの腑抜け同然になり、再任用制度で再び海に出た矢先、最愛の妻〈百合子〉が急死した。体力的な衰えもあり、今度こそ思い残すことなく船を下りた彼は、新婚旅行がてら小樽を訪れた姪夫婦に、おもむろに終活の相談を持ちかけるのである。小樽~北極圏のオーロラ観測村へと、生きる目的を見失ってさすらう男が胸に秘めた「ある計画」とは?

「少し気が早いかもしれませんが、僕が50になる頃です。もし小説が書けなくなったら一体何が残るのかと、現役を退いた後のことが、急に不安になったんですね。

 日本人は家庭も顧みずに仕事に打ち込んだり、几帳面なわりに先のことを想定するのが得意じゃない。ヨーロッパではもっと先々のことを考えて会社にいる時間をいかに少なくするかに重きを置くんです。まあ小説が人生の全てだと思う僕も十分、日本人的と言えるかもしれませんが(笑い)」

 創作は常にイメージありきだというゾペティ氏は、本作でもまず、理沙たちが冬の日和山灯台をめざすシーンが浮かんだという。

「空は晴れているのに、地表には地吹雪の舞う中を、日本人女性と北欧人らしき男性が歩いていて、そこに電話がかかってくる。電話の主は巡視船で最後の航海に就く船乗りで、甲板で銀髪をなびかせる渋くてカッコイイ男なんです。

 もうその時点で主人公は海上保安庁の船員でしたし、あとはその絵をどう小説にするかでした。2009年頃に終活なるものが流行り始めてから、楠木の終活とそれを見守る姪夫婦、そして彼らが新生活を始めるオーロラ観測村へと、一気にイメージが広がっていきました」

 きっかけは〈峯苫〉という先輩ボースンの孤独死だった。妻をくも膜下出血で亡くし、子供もいない楠木は、海外に嫁いだ理沙に迷惑をかけないためにも今後の身の処し方を決めておきたくなったのだ。

 同じく小樽海上保安部の灯台守の娘だった理沙は、幼い頃に両親を事故で亡くし、伯父夫婦に育てられた。旅行代理店に勤める傍ら、フィンランドでオーロラ観測兼観光施設を営む学者の息子ペッカと出会い、結婚。夫は父の死後、社長を継ぎ、今回の日本旅行が伯父と話す最後かもしれなかった。

 3人で各種説明会を周り、〈サ高住〉と呼ばれるサービス付き高齢者向け住宅や、〈安心いきいきの会〉という市民クラブも見学した。同会主催の〈葬送祭り〉では遺影撮影会や疑似葬儀の異様な盛り上がりに戸惑いもしたが、法律面の実務がクリアになるのは有難い。

「最近は死に装束や骨壺まで手作りしたり、違和感がないと言えば嘘になりますが、備えはあるに越したことはありません。ただこれだけは強調しておきたいんですが、本書はいわゆる終活小説ではなく、楠木が終活を契機として、その先の人生をどう生きるかを考える小説なんです。家族や居場所を失った人間が人生の引き際をどう考えるかは、実は誰にとっても切実な問題だと思う」

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