帰国後は台湾政界で民進党の中核として活躍。台湾民主化の起点となった「美麗島」事件の弁護にかかわり、民進党結党メンバーの一人として党規約の起草の中心を担った。立法委員、高雄市長などを歴任し、陳水扁政経時代には首相にあたる行政院長も務めた。自らの派閥も持っており、台湾政界でも民進党の重鎮として影響力を持っており、蔡英文政権の誕生にも貢献した。その謝氏の派遣に蔡英文総統はどんなメッセージを込めたのか。

「私の派遣は台日関係への重視の証明です。蔡英文総統が私に伝えたことも、台日関係は非常に大切であり、安定すべきであるという考えで、私もまったく同感です。特に東日本大震災のあと、台日関係では特に民間の感情面で好ましい変化がありました。お互いの震災のたびに心を寄せ、支援を申し出ています。この流れを止めてはいけないと考えています」

 この取材の直後に日本へ赴任し、同じ民進党の陳菊・高雄市長、頼清徳・台南市長の被災地の熊本訪問にあわせて、謝氏も荷物をほどく間もなく熊本に飛ぶことになっていた。取材前後にも慌ただしく党内で打ち合わせを重ね、訪日準備に忙殺されていた謝氏。日台関係の下りでは身を乗り出した。

「日本も台湾もお互いを大切なパートナーと位置づけています。私はさらにこの関係が『運命共同体』に近づくべきだと考えています。経済だけをみれば台湾は中国とも深い関係です。しかし、日本とは単なる経済的なパートナーではなく、もっと深い人と人の情のようなものがあります」

「震災の支援は『善意の循環』です。相手が困っているときに駆けつけたい、という気持ちからくるものです。1999年の台湾大地震、2011年の東日本大震災、今年は日本が台南の震災を助けてくれた姿に私も大変感動しました。日本と台湾の歴史的なつながりもあるでしょう。政治的な目的や名誉を動機とするものではなく、誰かがやれと命じたものではなく、自然に積み重なったもので、だからこそ大切です。この好ましい循環をさらに常態化させたいと思っています」

 安倍・自民党政権は台湾に対して好意的な姿勢を見せている。駐日代表の役割の一つは、国会議員とのパイプを築き、台湾側の「本音」を伝え、日本側の「本音」を探るところにもある。台湾政界で巧みに生き残ってきた「業師」の印象が強い謝氏だが、日本の政治家とはどんな関係を築くのか。

「日華懇(日華議員懇談会。台湾との交流を目的とする超党派議連)の議員だけでも300人いるといいます。一人一人訪問するだけで一年かかりますね(笑)。自民党だけではなく、いろいろな政党の方々もいる。まずは参議院選もあります。ゆっくりコツコツ関係を作っていきたい。日本留学中は京都で勉強ばかりで、今度はぜひ地方にも足を運びたい。

 そのなかで自治体交流の強化は私が重視するところです。高齢になった台湾の日本語世代が次第に第一線から退いていくなか、いかに次世代のために日台関係が安定するメカニズムを作るか。日本と台湾は外交関係こそありませんが、民間の交流はとても活発で、都市間の往来も頻繁です。しかし、単発なものになりがちです。市長が変わっても、政権交代があっても変わらない日台交流のメカニズムを育てることが私の重要な仕事の一つになります」

 訪日直前、沖ノ鳥島の近海での台湾漁船拿捕をめぐり、馬英九前政権が強硬姿勢を取ったことが話題になった。その渦中に冷静な対応を呼びかけた謝氏の発言は台湾社会で国民党寄りメディアなどから集中砲火を浴びた。その真意を尋ねると、いささか厳しい表情を浮かべ、こう語った。

「政府が海巡署(海保)を派遣して漁民を守る。これは私も賛成です。しかし軍艦の派遣には賛成できない。台湾の世論も平和的解決を求めている。軍艦を出しても平和的な解決はできない。軍艦は一種の外交のカードだと言う人もいた。しかし、偶発的な衝突が起きたらどうするのか。政府は漁民を守り、トラブルは外交交渉で解決する。それが民進党政権の態度です。さらに言えば、沖ノ鳥の問題は主権ではなく、経済水域と公海の定義の問題であり、台湾の一部で言われた『国辱』などといった言葉は当てはまらない案件です」

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