馬英九政権下での良好な中台関係では、中国も日台関係に比較的余裕をもって対応してきたが、民進党政権の誕生で中台関係が冷却化し、中国が以前よりも厳しい態度を取ってくる可能性も一部では懸念されている。

「中国は間違いなく台日に注目するでしょう。しかし、民進党には日本と連携して中国と対抗する考え方はありません。この地域にはいろいろ複雑な問題があります。例えば、東シナ海の釣魚台(尖閣諸島)や南シナ海の問題などです。台湾はお互いを刺激せず、平和的な解決をじっくり求めていくスタンスです。東アジアの繁栄は戦後の長い平和がもたらしたもの。台湾は平和の『緩衝材』の役割を果たしていけばいい。私たちの政策はそこにあります」

 5月20日の民進党政権復帰の日、蔡英文総統は、就任演説を行った。その内容に「一つの中国」原則を認める言及がなかったため、中国は台湾との対話の一部を中断し、台湾への観光客を段階的に減らしていくなど、制裁的な措置に踏み切りつつある。

「蔡英文総統の演説は、実際のところ、中国大陸に対して善意を示したものです。私の見方でも、過去の主張と比べても、表現方法を比較的改めてきている。中国大陸と台湾はともに少しずつ調整していけばいいです。蔡英文総統は中華民国憲法のもとで、過去の経緯も尊重しながら、民意を大切にしたい、ということを述べていたと思います。私たちは民主国家です。民意に反することはできません。世論調査で支持率は2割、3割になったらどんな政策も実行しにくくなる。過去に馬英九前総統時代に国民党は立法院で4分の3近くを握っており、いまの蔡英文総統よりも勢いがありました。でも、いまはどうでしょう? ですから我々は、慎重に、民意にのっとって一歩一歩進んでいくべきで、蔡英文総統はそのことをよく分かっていると思います」

 民進党は8年の雌伏の末、政権復帰を果たした。今度は初めて立法院での過半数も獲得した。党創設のメンバーでもある謝氏はどんな気持ちか。

「2000年の時に民進党はチャンスをもらったが、反省すべき点が残りました。私たちは経験も浅く、国会でも少数でした。台湾には多くの異なる意見があります。今度は人民の声にしっかりと耳を傾け、慎重に執政をしないといけない。世界経済は厳しく道のりは困難ですが、台湾を新たな発展に導くことが民進党の仕事です」

【PROFILE】謝長廷/1946年、台北市に生まれる。台湾大学法学部で在学中に司法試験に合格し、京都大学に留学。帰国後弁護士となり、民主化運動の起点なった美麗島事件を担当し、政治に関わり始める。台北市議を経て、民進党創設メンバーの一人となった。立法委員、高雄市長、民進党主席などを経て、陳水扁政権の行政院長に就任。2008年には総統候補として出馬したが馬英九に敗北。党内では自分の派閥を抱え、隠然たる影響力を持つ。2012年には訪中するなど中国ともパイプがある。

※SAPIO2016年8月号

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