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尖閣周辺のロシア軍艦航行 日本政府が抗議しなかった理由とは

手前から南小島、北小島、魚釣島 共同通信社

 尖閣周辺を中国艦艇とロシア艦艇が同時期に航行するという異常事態が発生した。南シナ海で「航行の自由」作戦を繰り返すアメリカへの挑発か。中露は水面下で手を結んでいるのか。様々な憶測が飛び交うなか、作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏が両国の真意を読む。

 * * *
 外交では、相互主義という原則がある。相手がやったのと同じ事をやり返す権利だ。日本政府も相互主義原則を適用して、中国の青島沿岸の領海や海南島沿岸の接続水域を自衛隊の護衛艦が通航することだってできる。

 しかし、日本はあえてそれをしていない。それは、中国の外交部と海軍の間に、深刻な見解の相違があることが明白だからだ。6月9日未明に尖閣周辺の接続水域に中国軍艦が通航したとき、直ちに齋木昭隆外務事務次官(当時)が程永華駐日中国大使を外務省に呼びつけて激しく抗議した。

〈外務省の斎木昭隆事務次官は午前2時ごろ、程永華駐日中国大使を同省に呼び出し、今回の行為を「一方的に緊張を高める行為だ」として同水域から直ちに出るよう抗議した。中国が尖閣諸島の領有権を主張しているためだ。〉(6月10日「朝日新聞」朝刊)。

 もし、中国外交部が中国海軍の行動を支持しているならば、深夜の呼び出しに程永華大使が応じることはない。大使館の当直が「大使と連絡が取れません」といって、翌日の勤務時間になってから、齋木氏の呼び出しに応じるという態度を取ったはずだ。日本政府としては、中国の外交部と海軍の間の温度差を最大限に活用して、日本に有利な状況を作り出そうと考えている。

 ロシアの軍艦の航行について、日本政府が抗議せずに無視するのは、中露が連携している事実はないというインテリジェンス情報を外務省が得ていることと、この問題をことさら取りあげて、北方領土交渉に悪影響を与える必要はないとの首相官邸の政治判断によるものだ。裏返して言うならば、安倍晋三政権下で、日露の信頼関係がかなり高まっているので、今回は日本がロシアに「貸し1」という形で大人の対応をしているということだ。

【PROFILE】1960年生まれ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。SAPIO で半年間にわたって連載した社会学者・橋爪大三郎氏との対談「ふしぎなイスラム教」を大幅に加筆し『あぶない一神教』(小学館新書)と改題し、発売中。

※SAPIO2016年8月号

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