だが、韓国財閥トップの犯罪は経済に寄与しているということから「恩赦」「特赦」がついて無罪放免になることが少なくない。李健熙会長が全斗煥・盧泰愚両元大統領に行った贈賄事件も裁判で有罪となるが赦免された。
なぜ、財閥トップの犯罪に甘いのか──。2007年からスタートした李明博政権で財閥を優遇することで成長を進めていく経済政策をとってきたためだ。
2006年に逮捕された鄭夢九会長は光復節(光復63周年・建国60周年)を記念する特赦により赦免・復権を果たしている。また、2009年に李健熙会長が有罪となった脱税事件では、平昌オリンピック招致のためという理由で恩赦され、翌年の2010年3月24日にはサムスン電子会長として経営に復帰した。
しかし、李明博政権では結果的に国内の貧富の差を拡大させることになり、庶民の不平不満が増幅。財閥とのなれ合いを続けていくわけにはいかなくなった。
李明博に代わって大統領となった朴槿恵(パク・クネ)は経済成長を進めながら大企業の不正や格差拡大に不満を募らせる「経済民主化(大企業による独占や横暴をなくして校正な取引を実現すること)」を掲げて財閥一族による利益独占の解消を示唆した。
しかし、経済成長戦略がうまくいかず財閥頼みの政策に逆行。2013年1月に、特定経済犯罪加重処罰法の背任で逮捕されたSKグループの崔泰源会長は2015年に特赦を受け、国民からは“有銭無罪”など冷ややかな声が上がっている。
「重要な意思決定はオーナー一族が担っているため、不在となると重要なことが何も決められずに経営にも大きな影響がある」(事情通)
罪を犯しても罰せられない財閥一族。そんな状況の中で今年4月に行われた総選挙で与党のセヌリ党が大敗、共に民主党に第一党の座を奪われ、来年末の大統領選挙では暗雲が立ち込めている。
韓国では、昨年8月に武闘派刑事が大財閥を叩き潰すというストーリの映画「ベテラン」が放映され、あの「ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション」を抑えて3日間で100万人、1か月で1000万人を動員した。
今後、韓国の政権は、まず「経済民主化」の実績を上げなければ国民の支持は得られない。そうした意味でも、財閥一族の犯罪対応は大きな分岐点へと差し掛かっている。
●文/松崎隆司(経済ジャーナリスト)