お酒のCMに男優ばかりが起用されていたのは遠い昔の話。今や、若手から中堅まで出演する女優が急増している。彼女たちの豪快な飲みっぷりについて、コラムニストのペリー荻野さんが綴る。
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最近のアルコール飲料のCMは「元気のいい女優の時代」である。その代表例といえば、ご存知、天海祐希。サントリーの「-196°Cストロングゼロ」CMでは「食欲ストロング編集長」として、ある時は「おつまみ祭り」に出かけて、豚キムチや焼き鳥、餃子を頬張り、ぐいっとジョッキでストロングゼロを飲んで満足顔で親指を突き出し「ストロンGood!」。
その言葉の瞬間、シャワーのごとく大量の水流が噴き出して、お付きの編集者(鈴木浩介)をはじめ関係者は水浸し。またある時は、働く人々が集う新橋の飲み屋に乱入して、乾杯したいサラリーマンを押しとどめ「プリン体ゼロ、糖類ゼロ」をアピール。もちろん、「ストロンGood!」とともに、全員水浸しである。
初めてこのCMを見たときは、食べる、呑む、親指、シャワーの連発があまりに早すぎて何が起こっているのか、よくわからないくらいだったが、今はすっかり見慣れて、キリリとしたワンピース姿の天海祐希が歩いてくるだけで「来るな、ストロンGood!」とわかるようにになった。サントリーのHPを見ても、撮影に際して監督は天海編集長に「いつも通りでお願いします」としか伝えなかったという。あのテンションは「いつも通り」なのだ。すごいな、天海祐希。
一方、新たな豪快ドリンカーとして登場したのが、吉田羊だ。そば焼酎雲海のCM。後輩らしき面々に囲まれながら、ご機嫌の羊。「芝居は奥が深いですね…」と隣の若手男子に言われると、「そりゃそうだ、そばソーダ!」、「やっぱりつくねはタレだよね」とうれしそうな隣の食いしん坊にも「そりゃそうだ、そばソーダ」、「ネイル、羊だ~」という向かいの女の子にも「そりゃそうだよ、そばソーダ」。ダジャレ三連発、そして、グラスのそばソーダをぐいぐいと飲み干し、「あーっ!!」と気持ちよさげだ。
吉田羊といえば、朝ドラマ『純と愛』の堅物上司役で注目されて以来、美人女優路線でいくのかと思ったら、『HERO』などで強気&おとぼけの顔を見せ、『真田丸』では無愛想な嫁、そしてこのダジャレCMと変幻自在。豪快ドリンカーという顔も増えて、怪女優への道を突き進んでいる。
この他、サントリー「金麦」では、檀れいがいつもにこにことうれしそうだし、同じく「金麦糖質75%オフ」では戸田恵梨香が、大事なのは「おいしい」、「こと!」と琴を弾き、「糖質オフな」「こと!」と古都で舞妓さんと並んでピース。こちらもよく見ればダジャレである。「オールフリー」には黒木華も出ているし、サントリーは女優CMがとても多い。
かつてアルコール飲料のCMといえば、苦み走った男たちがしみじみと飲む姿を映し出すのが通例であった。今も名作として語り継がれるのは、1970年、世界的スター三船敏郎の出演作。画面中央にどかんとあぐらをかいた三船は、手にしたビンからグラスにとくとくとつぐと、ぐいっとやって「ぷはっ」。そしてナレーションが「男は黙ってサッポロビール」。本当に最後まで三船は黙ったままなのである。
それから半世紀近くたった現在は、「黙って」どころか元気いい女優たちがダジャレも交えてぐいぐい飲み干している。三船が見たらどう思うか。もっとも三船敏郎ご本人はダジャレ好きだったという。案外、喜んでいるのかも。21世紀の日本の豪快ドリンカー女優は、夏バテ知らずである。