ボストンバッグひとつで上京したのは16歳の時。自動車修理工、土木作業員、新聞配達と職を転々とした。仕事に就くためにあちこちで頭を下げたが、「いつか見ていろ」という気持ちがあった。
俺がボクシングと出会ったのは25歳。遅すぎるデビューにもかかわらず頂点を極められたのも、おふくろの「負けるんじゃないよ」のお陰だと思っている。
世界タイトルの6連続防衛と2度の奪還は輪島功一だけ。マイク・タイソンだってできなかった。俺は他の人の3倍練習し、自分で考えた中身の濃い練習を重ねた。その根底にもおふくろの言葉があった。32歳で引退を決めた時、おふくろは「功一、よく頑張った」といってくれた。
7年前に86歳で亡くなったが、ボクサーの俺から見ても我慢強い女性だったね。
●わじま・こういち/樺太生まれ。元WBA・WBC世界スーパ-ウェルター級王者。「カエル跳びパンチ」で人気を博した。現在はボクシングジムや団子屋を経営。
※週刊ポスト2016年7月22・29日号