米軍が撤退したからといって、日米同盟を破棄する理由にはならず、現実には堅持すべきであるが、米軍の抜けた穴を埋めるために、自衛隊を強化して自己防衛体制を築かねばならない。安倍首相が進めてきた集団的自衛権の発動を期待した防衛体制ではなく、個別的自衛権をベースにした防衛体制を整備していくべきだ。
集団的自衛権については憲法解釈を巡ってさまざまな議論があるが、個別的自衛権まで否定する者はほとんどいない。ゆえに、憲法改正は必要ないとも言えるが、もしアメリカの核の傘から抜けるとなれば、核武装や弾道ミサイル等の配備も想定されるので、軍事力を明記した憲法改正は視野に入ってくる。
TPPについても、巨大市場であるアメリカが参加しないとなれば、日本も参加する意味はなくなる。しかも、グローバル経済の破綻が見えてきたなかにあっては、TPPの恩恵が得られるのはせいぜい数年で、逆にベトナムなど東南アジア諸国の安価な製品が日本市場に進出することも考えられる。
アメリカが加盟しないのであれば、TPPそのものが機能しないだろう。輸出を中心に据えたグローバル経済から、むしろ地産地消型の国内経済重視の体制に転換すべきである。
【PROFILE】佐伯啓思●1949年奈良県生まれ。東京大学経済学部卒業。同大学院博士課程(経済学)修了。『正義の偽装』『さらば、資本主義』(いずれも新潮新書)など著書多数。
※SAPIO2016年8月号