筆者はこのクリニックについて、歯を残したいという患者の切実な願いを裏切った、背徳的な行為として捉えたが、異なる見解を示したのは大月氏と長崎氏である。大月氏はこう語った。

「患者の主張だけで報道するのは、偏っている印象を受けます。よくできている治療計画に見受けられますし、暴利ということもないように思います。

 週刊誌で断罪するのは、この歯科医師に対してもアンフェアーですし、本来の医療的観点からインプラントをすることが正しいであろう、と思われる患者が正しくない根拠から忌避することになれば、それも患者の利益になりません」

 長崎氏の言い方はこうだ。

「通常の歯科医療では10年もてば十分良かろうと。患者にとっては100万円、200万円を払って入れたものが一生保つと思っても、それを責められませんが、歯医者の側からみると、いまピンピンしてる人も10年後には白髪も増え、お腹も出て、目も見えなくなる。人それぞれ老化していく。そういうのを医療ミスだといわれても困ってしまう」

 このケースは、患者とクリニックの関係が継続していたので、クリニックを取材することは患者にとって不利益が生じる可能性が高いと判断した。

 一方、たとえ歯科医が妥当な治療法だと判断しても、莫大な費用を負担するのは患者本人。小林氏は治療計画に記された、ある言葉に疑問を呈した。

「一生歯を残す、という言葉はダメですよ。この歯科医は詐欺師だと言われても仕方がありません。だって、“一生”と書いてあれば、患者は安心してサインしちゃいますよ。確かにインプラントは虫歯にならない。でも歯周病にはなる。医者の根本の倫理観をなくしていますね」

 米畑氏も同様だ。

「医学的な観点でいうと、インプラントも歯周病みたいな状態になることがありますから、(治療計画で)歯周病から解放されますみたいな話はおかしいと。むしろ、そっちを突っ込みたくなります。

 まともな先生なら、なぜ歯を残すことが難しいのかを説明し、歯を残す根管治療とインプラントの両方の選択肢を示すはずです。本当に金儲けでやってる先生もいるので、疑問を感じたらセカンドオピニオンを受けることを勧めます」

※週刊ポスト2016年8月19・26日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
渡邊渚さん(撮影/藤本和典)
「私にとっての2025年の漢字は『出』です」 渡邊渚さんが綴る「新しい年にチャレンジしたこと」
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
実力もファンサービスも超一流
【密着グラフ】新大関・安青錦、冬巡業ではファンサービスも超一流「今は自分がやるべきことをしっかり集中してやりたい」史上最速横綱の偉業に向けて勝負の1年
週刊ポスト
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン
12月30日『レコード大賞』が放送される(インスタグラムより)
《度重なる限界説》レコード大賞、「大みそか→30日」への放送日移動から20年間踏み留まっている本質的な理由 
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン