スポーツ

小出義雄監督「世界で勝つには一か八かでやらないと」

2人の笑顔は、日本に勇気を与えた 共同通信社

 日本中が歓喜に沸いた1日があった。今から16年前、シドニー五輪でQちゃんこと高橋尚子(当時28歳)が見せた軽やかな走りとゴール後の笑顔は、今でも日本人の記憶に刻まれている。その高橋を育てた小出義雄監督(77、佐倉アスリート倶楽部)に会ってきた。会った当日は、リオ五輪直前とあってスポーツ熱が高まるなか、名伯楽の口から漏れ出るのは、日本陸上界への悲観と叱咤と、自らの大いなる夢だった。

 * * *
 あのシドニー五輪の金メダルも、高橋と小出、二人の命がけの取り組みの賜物だった。象徴的な練習がある。

 練習拠点は標高1600mの米国コロラド州ボルダーだったが、レース2か月前、さらに2000m近く上がった3500mで、24kmの山道を全力で駆け上がる超高地トレーニングを敢行した。日本人に合った高さは2000m前後というのが「常識」で、スポーツ科学の権威からは「非常識」と批判された。

「俺は非常識だと思ってない。本当はもっと高いところでやりたかった。常識的なことをやっても勝てないよ」

──ただ、高橋さんも走り始めた当初は心臓が潰れそうに痛いなどと訴えていた。体へのダメージやケガは心配ではなかった?

「大したことないよ。当時は自分でも走ってみたしね。世界で勝つには、ケガするかしないかギリギリのところを一か八かでやらないといけない。それにね、人間の体というのは、その環境に応じて変わっていくんです。

 52年前の東京五輪でアベベが優勝したよね。ゴールして『もう一回走れる』と言ったの。彼は3000m級の高地で生活して、裸足で歩いたり走ったりしていたから、42kmなんて軽く走れる。日本人だって同じようにやればそうなる。こんなの常識でわかるじゃない」

──昔から強い選手は非常識と言われる練習をやっていますよね。

「僕は順天堂大時代に円谷(幸吉)さんと青森東京駅伝で同じ区間を走ってる。新幹線みたいに先に行かれちゃうんだ。高校のときは大したことなかったのに、自衛隊に入ってから急に強くなったから、宿舎で枕を並べてどんな練習をしてるか聞いたの。例えば、朝霞駐屯地の周りの2kmのコースを10本やってる。他の選手の倍ですよ。

 当時、ある専門家がマラソン練習は月間600kmくらいがいいと言っていたけど、彼は朝練だけでそれくらい走ってた。限界までやっていたから強かったんだ。僕はその練習をQちゃんに取り入れてみたの。それが成功したんだよ」

関連キーワード

関連記事

トピックス

全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
JR東日本はクマとの衝突で71件の輸送障害 保線作業員はクマ撃退スプレーを携行、出没状況を踏まえて忌避剤を散布 貨物列車と衝突すれば首都圏の生活に大きな影響出るか
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《全国で被害多発》クマ騒動とコロナ騒動の共通点 “新しい恐怖”にどう立ち向かえばいいのか【石原壮一郎氏が解説】
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
NEWSポストセブン
“ポケットイン”で話題になった劉勁松アジア局長(時事通信フォト)
“両手ポケットイン”中国外交官が「ニコニコ笑顔」で「握手のため自ら手を差し伸べた」“意外な相手”とは【日中局長会議の動画がアジアで波紋】
NEWSポストセブン
11月10日、金屏風の前で婚約会見を行った歌舞伎俳優の中村橋之助と元乃木坂46で女優の能條愛未
《中村橋之助&能條愛未が歌舞伎界で12年9か月ぶりの金屏風会見》三田寛子、藤原紀香、前田愛…一家を支える完璧で最強な“梨園の妻”たち
女性セブン
土曜プレミアムで放送される映画『テルマエ・ロマエ』
《一連の騒動の影響は?》フジテレビ特番枠『土曜プレミアム』に異変 かつての映画枠『ゴールデン洋画劇場』に回帰か、それとも苦渋の選択か 
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン