初乗り値下げによる利用者の反応はさまざま
こうした乗客の反応に、タクシー運転手も困惑顔だ。新橋駅前で410円タクシーの実験に参加した運転手がいう。
「やっぱりお客さんは料金には敏感ですよ。運賃加算の距離が短くなり、メーターが上がるカチカチという音の間隔も4、5秒早くなったことで、お客さんは現行タクシーと同じ金額で降ろしても、むしろ高くなったように感じるみたいで……。1000円程度の距離でも『あれ? いつもより高いな』と不満を漏らします」
タクシー業界としては、短距離の買い物や病院通いなどで足がなく不自由している高齢者や、これまで初乗り運賃が高くて短距離のタクシー移動を控えていたようなビジネスマン、重い荷物を抱えて観光地から近所のホテルに移動する外国人など、新たなちょい乗り顧客を獲得して全体のタクシー需要を高めたい思惑がある。
「初乗り運賃の短縮でタクシー会社や運転手の収入が極端に減らないよう、中距離以上の“上客”から多く徴収するような制度になっている」(前出・経済誌記者)というわけだ。
だが、現場のタクシー運転手からは、こんな声も聞こえてくる。
「新しい運賃になって街中を流すようになっても、朝晩の忙しい時間帯にシルバーカートを引いた老人や、突然の大雨でビニール傘を買うよりも安いと“傘代わり”に乗ってくるようなビジネスマンは、できることなら避けたいのがホンネ。
明らかにちょい乗り客だと思ったら、道端で手を挙げていても見て見ぬフリをするタクシーが増えるかもしれませんね。これは乗車拒否でやってはいけないことなのですが……」(下町界隈を走る40代運転手)
果たして本当に利用者のためになる運賃改定なのか──。業界も国交省もしっかりと見定めなければ、タクシー需要は増えるどころかますます伸び悩んでしまうはずだ。