「嘘をついた。連絡を無視した」。不良グループはそんなささいな理由で仲間の少年を殺めた。なぜ彼らは全身に赤い服をまとい、理解に苦しむ凶行に及んだのか。「カラーギャング」を自称する彼らの狂気の原点──。
台風が近づいていた。木々がざわつく音に混じり、ドスッ、ボコッという鈍い音が、川の水面に響く。月明かりに少年たちの影が揺れ、ウウッといううめき声が上がる。やがて痛みに耐える声は、荒ぶる風の音に消されていく。
8月22日午前2時半頃。埼玉県東松山市を流れる都幾川の橋の上で、5人の少年たちが井上翼くん(享年16)を取り囲んでいた。リーダー格の17才と16才の少年、後の3人は中学3年生だ。
少年たちは翼くんを引きずるようにして幅2mほどのコンクリの沈下橋を渡り、人気のない河川敷に連れ込んだ。
「おい、泳げよ」。翼くんの服を脱がせ、全裸で冷たい川に放り込む。服は川に放り投げた。岸にしがみついた翼くんを砂利の上に転がし、殴り、石で打ち、蹴った。16才の少年は格闘技の素養があったが、殴った彼の手も腫れ上がるほどの激しい暴行だった。
1人が携帯を取り出し、その様子の撮影を始めた。冷酷な笑い声が河川敷に響く。中学生の1人が声を震わせた。
「これ以上やったらヤバイっすよ。やめましょうよ、先輩」
だが、先輩は冷たくこう言い放った。
「ここにいる限り、同罪だ。お前もやれ」
やらないと、自分も殺される──そう感じた少年は翼くんを一度蹴りあげると、他の中学生と共にその場から逃げ出した。
その後も、翼くんへの暴行は明け方まで続いた。翼くんは泡を噴いて痙攣し始めた。最後に頭を思いきり川に沈めると、やがて体は脈打つことを止め、まったく動かなくなった。怖くなった少年たちは翼くんの遺体をその場に放置し、ワインレッドのバイクに跨がって逃げた──。
その日の午後、台風9号が関東地方を直撃。翼くんの亡骸は激しい風雨に晒されたうえ、水かさを増した川にのみ込まれた。
台風が過ぎ去った河川敷で、釣りにきた70代の男性は下半身が砂利に埋まり、顔と右胸、右腕、左手の一部だけが露出した遺体を発見した。23日午前8時のことだった。
「死体のようなものが埋まっている」
110番通報を受けて駆けつけた警察が確認した時、全裸の翼くんの顔と体はあざで赤茶色に変色していたという。24日、翼くんの殺害にかかわった16才の少年が自ら出頭し、殺人容疑で逮捕。他の4人も25日に逮捕された。
翼くんはその日、彼らの遊びの誘いに「今、地元にいない」と嘘をついて会うのを断っていたが、地元のコンビニでジュースを買っているところを見つかってしまう。少年らは犯行の動機について「嘘をついて無視したから」と供述している。