国内

国民の8割が支持する死刑制度と被害者感情について

〈だから、ぼくは君たちに憎しみを贈ることはしない。君たちはそれが目的なのかもしれないが、憎悪に怒りで応じることは、君たちと同じ無知に陥ることになるから。君たちはぼくが恐怖を抱き、他人を疑いの目で見、安全のために自由を犠牲にすることを望んでいる。でも、君たちの負けだ。ぼくたちは今までどおりの暮らしを続ける〉

〈息子とぼくは二人になった。でも、ぼくたちは世界のどんな軍隊より強い。それにもう君たちに関わっている時間はないんだ。昼寝から覚める息子のところへ行かなければならない。メルヴィルはまだやっと十七カ月。いつもと同じようにおやつを食べ、いつもと同じように遊ぶ。この幼い子供が、幸福に、自由に暮らすことで、君たちは恥じ入るだろう。君たちはあの子の憎しみも手に入れることはできないのだから〉

 さて、どうお感じだろう。男は高い知性の持ち主である。犯人と同じ土俵にのぼらないことが、犯人を負かす唯一の道とし、それを実践しようとしている。最大のテーマは、自分の中にある憎しみの感情との戦いだ。憎しみにかられて、現実を見失ってはいけない。

 そう自身に言い聞かせる、自身を説き伏せる文章が、薄い一冊の中に詰まっている。知的苦悩の軌跡をまとめた本ともいえよう。

 一読を薦めたい好著だが、でも、私たちはみんなこれほど知的でいられるか。男には、妻との間にできた一歳五か月の息子が残された。ママ、パパ、まんま。まだ三つの言葉しか言えない保育園児。男には、その世話の役割がある。ママがやっていた育児を自分が代わりにやらなければならない。それは重い責任だが、男にとっての幸いでもある。

 なぜって、もし妻だけでなく息子も殺されていたら、この男はもう〈今までどおりの暮らしを続ける〉ことができないから。自分一人だけ残されたとしたら、この男だって過激派組織ISと戦う別の過激派になっていてもおかしくない。あるいは心を病む。高い知性もその位には頼りないものだと思う。

 日弁連の「宣言案」では、被害者支援の重要さも説くという。そこはなにより重要だ。とってつけじゃない支援の方法を提示してほしい。支援しきれない被害者感情があることも踏まえてほしい。その上で、死刑廃止の議論を喚起してもらいたい。

関連記事

トピックス

沢口靖子
《新たな刑事モノ挑戦も「合ってない」の声も》沢口靖子、主演するフジ月9『絶対零度』が苦戦している理由と新たな”持ち味”への期待 俳優として『科捜研の女』“その後”はどうなる?  
NEWSポストセブン
マイキー・マディソン(26)(時事通信フォト)
「スタイリストはクビにならないの?」米女優マイキー・マディソン(26)の“ほぼ裸ドレス”が物議…背景に“ボディ・ポジティブ”な考え方
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
《かつてのクマとはまったく違う…》「アーバン熊」は肉食に進化した“新世代の熊”、「狩りが苦手で主食は木の実や樹木」な熊を変えた「熊撃ち禁止令」とは
NEWSポストセブン
アルジェリア人のダビア・ベンキレッド被告(TikTokより)
「少女の顔を無理やり股に引き寄せて…」「遺体は旅行用トランクで運び出した」12歳少女を殺害したアルジェリア人女性(27)が終身刑、3年間の事件に涙の決着【仏・女性犯罪者で初の判決】
NEWSポストセブン
家族が失踪した時、残された側の思いとは(イメージ)
「お父さんが死んじゃった」家族が失踪…その時“残された側”にできることとは「捜索願を出しても、警察はなにもしてくれない」《年間の行方不明者は約9万人》
NEWSポストセブン
19歳の時に性別適合手術を受けたタレント・はるな愛(時事通信フォト)
《私たちは女じゃない》性別適合手術から35年のタレント・はるな愛、親には“相談しない”⋯初めての術例に挑む執刀医に体を託して切り拓いた人生
NEWSポストセブン
ガールズメッセ2025」に出席された佳子さま(時事通信フォト)
佳子さまの「清楚すぎる水玉ワンピース」から見える“紀子さまとの絆”  ロングワンピースもVネックの半袖タイプもドット柄で「よく似合う」の声続々
週刊ポスト
永野芽郁の近影が目撃された(2025年10月)
《プラダのデニムパンツでお揃いコーデ》「男性のほうがウマが合う」永野芽郁が和風パスタ店でじゃれあった“イケメン元マネージャー”と深い信頼関係を築いたワケ
NEWSポストセブン
クマによる被害
「走って逃げたら追い越され、正面から顔を…」「頭の肉が裂け頭蓋骨が見えた」北秋田市でクマに襲われた男性(68)が明かした被害の一部始終《考え方を変えないと被害は増える》
NEWSポストセブン
園遊会に出席された愛子さまと佳子さま(時事通信フォト/JMPA)
「ルール違反では?」と危惧する声も…愛子さまと佳子さまの“赤色セットアップ”が物議、皇室ジャーナリストが語る“お召し物の色ルール”実情
NEWSポストセブン
「原点回帰」しつつある中川安奈・フリーアナ(本人のInstagramより)
《腰を突き出すトレーニング動画も…》中川安奈アナ、原点回帰の“けしからんインスタ投稿”で復活気配、NHK退社後の活躍のカギを握る“ラテン系のオープンなノリ”
NEWSポストセブン
9月に開催した“全英バスツアー”の舞台裏を公開(インスタグラムより)
「車内で謎の上下運動」「大きく舌を出してストローを」“タダで行為できます”金髪美女インフルエンサーが公開した映像に意味深シーン
NEWSポストセブン