当初、食欲や体重の調整に関連する物質と推測されていた。ところが、遺伝子組み換えでオレキシンを作れないようにしたマウスで調べたら、エサを食べる量は多少減るものの痩せない。そこで、夜行性であるマウスの行動観察のために24時間赤外線カメラを設置したところ、元気に動き回っていたマウスは突然動きが止まり、倒れるなどの行動が確認された。
しかも30秒ほどで、また動き始めた。マウスに脳波計をつけて測定してみると、人間のレム睡眠(浅い眠りで脳が動いている状態)と同じような状況であることがわかった。
「人間の睡眠は、ノンレム睡眠(深い眠りの時期)が90分ほど続き、その後、レム睡眠に入ります。マウスがパタッと倒れるのは、覚醒から突然レム睡眠に入ったためで、これはナルコレプシーそのものです。これでオレキシンは、脳を覚醒させ維持する役割があることがわかりました。その後の研究で、ナルコレプシーの患者も、オレキシンが減少しているのが判明したのです」(柳沢機構長)
ナルコレプシー治療は、日中の眠気予防のため、覚醒作用のある薬物療法が主だが、めまいや吐き気などの副作用もある。現在、機構ではオレキシンを補充する薬の研究を進めている。オレキシンは、アミノ酸が集まったペプチドなので、このままでは脳内に到達できない。そこで、受容体に結合し、オレキシンと同じ作用をする物質の試作品を合成した。2、3年後には前臨床試験を開始する予定だ。
■取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2016年9月16・23日号