高橋は言う。政治は「勝ち負け」がわかる世界だから、目標が達成できなかった以上、限界はあった。しかし、社会と文化に深い影響を与えたのではないか。
なるほど、高橋の言うのとは別の意味で、そうかもしれない。
シールズのデモは、旧来のデモと違ってラップ調で主張を訴えている。これが誰でも楽しくデモに参加できることを可能にしたらしい。前述の高橋の談話にある「ふつうの人」の運動ということだろう。
しかし、「ふつうの人」が参加したから、その運動が「正しい」とは言えないし、ラップ調で楽しければそれがいいということにもならない。ナチスのユダヤ人排斥だって「ふつうの人」の運動だったし、支那の文化大革命だって「ふつうの若者」が数億人も参加した運動だった。ともに、音楽や映画や街頭パフォーマンスを全面活用した「楽しい運動」だった。
シールズが社会と文化にいくらかは良い影響を与えたかもしれないと、私が思うのは、次のようなことだ。シールズのデモのラップ調掛け声に、こんなのがあった。
民主主義って何だ!? これだ!!
言いえて妙である。私は30年前の著書で言っている。民主主義とはバカは正しいという思想である、と。最近やっとポピュリズム批判の中で、この基本認識が議論の俎上にのるようになった。シールズのおかげでもあると思う。
●くれ・ともふさ/1946年生まれ。日本マンガ学会前会長。著書に『バカにつける薬』『つぎはぎ仏教入門』など多数。
※週刊ポスト2016年9月30日号