戦後、日本が再び「一等国」として欧米と肩を並べんとした1980年代に陰謀論が再流行したことを考えると、その構図は今も同じと言える。国内にメイソンが少ないため一般になじみがなく、“謎の組織”感が強いことも、日本でフリーメイソン陰謀論が根強いことの一因だろう。

 陰謀論者にとって、この世界で起こるすべての出来事は陰謀勢力の策略のうちにある。東日本大震災は地中深くに埋められた「地震兵器」の仕業であるし、プッシュホンの「*」は「ダビデの星」を指す。夫婦別姓やジェンダーフリーの推進は「日本転覆を目論むリベラル派の陰謀」とされる。

 これらは一見すると荒唐無稽な主張だが、厄介なことに陰謀を証明する証拠が見つからないことは、陰謀が存在する証拠にされる。すなわち、「絶対にあるはずの証拠が見つからない」→「証拠が残らないくらい巨大な勢力の陰謀」→「そんな大それたことができるのはフリーメイソンくらいだ」と論理が飛躍するのだ。

 このレベルになると、仮に実在するメイソンが「全然、危険じゃないよ」と組織の内情を明かしても、陰謀論者は「あの程度のレベルの人間は真実を知らされていない」と無視する。まさに陰謀論は「虚構」なのだが、この虚構を守ろうとすればするほど主張が壮大になる。嘘を隠すために嘘をつき、傷口がどんどん拡大するようなものだ。

※SAPIO2016年10月号

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