最後まで賛否両論渦巻いた、珍しいタイプの朝ドラだったといえるかもしれない。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。
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本日終了したNHK朝ドラ『とと姉ちゃん』。視聴率20%超を持続するなど、数字を見れば広く人気を得たもよう。しかし一方で、違和感を訴える視聴者が特に中高年層に多く存在したドラマでもありました。「違和感」について一例をあげると…。
80代の女性は言います。
「日本人は顔を至近距離で凝視したりしないもの。この主人公はじいっと目を大きく見開いてまばたきもしないでしょ、何だか怖いわ。ミュージカル出身だからかしら? あんな風な目つきになるのは」
たしかに。主人公・常子を演じた高畑充希さんはミュージカル好きで有名。『ピーターパン』で人気を博して今の地位まで登りつめた女優さんです。
たかが視線? されど視線。
人をじいっと見るのは失礼にあたる、というのは日本の文化的慣習。視線の使い方に文化的な特徴があることは、東大の研究でも明らかになっています。
「日本人は欧米人(フィンランド)に比べ正面向きの顔をより「近づきがたい」「怒っている」と感じることが明らかになりました」(「日本人はアイコンタクトをとられると「近づきがたい」と感じる 2013年3月東京大学大学院総合文化研究科)
主役のガン見はクセなのかも。しかし昭和を舞台に半年も続く、アップの多いテレビドラマにはフィットしない。
「主人公は表情がなく、目をぎろっと剥くだけ」「睨んでいるみたい」など目つき、視線について不快感を表す反応がしばしば。役者だけでなく演出側の問題もあるのかもしません。
と、「視線」は一例。「暮らしを大事にする」と強調するわりに、アイロンを幼い子の近くに放置したり、社内で「とと姉ちゃん」と呼び続ける不自然さも最後まで。「ほぼほぼ」「じぃじ」などの今様言葉遣いもおかしい。
日本人の生活文化・習慣をハズしている、礼儀が足りない、ありえない、といった批判的な感想も度々見うけられました。
「脚本」もまた、物議を醸しました。
批判の目立つ朝ドラはこれまでにもあったけれど、身近な人から“異議”の声が噴出した作品は前代未聞。ドラマのモチーフは、『暮らしの手帖』の創設者・大橋鎭子と編集長・花森安治。しかし途中から「ドラマはフィクションです。登場する団体や商品は実在のものではありません」という表示が入るようになった。出版指導として名を連ねていた『暮らしの手帖』元編集部員の小榑(こぐれ)雅章氏の名前も、画面から消えました。
ご本人の希望だそうです。花森編集長の戦争に対する思いについて単純化しようとしたり、商品テストで事実と違う描き方など、ドラマの内容に責任が持てなくなった事が理由のようでした。(週刊朝日2016年9月23日号)
もちろん現実の話をモチーフにしていると言っても、ドラマですから脚色されたりエピソードが加わったすることはありうる。しかし、根幹の部分で白が黒になったり、最も大切な信念を簡単に曲げるような話はありえない。大切なポイントを逸脱してしまった、ということでしょう。