個人的に、最も疑問に感じたのは「広告掲載」についてのくだり。
広告掲載の是非を巡って編集長の花山と社長の常子とが対立。広告を載せない方針はこの雑誌において最も重要なテーマでした。広告によってスポンサーの圧力がかかってはならない。商品テストは絶対に企業のヒモつきであってはならない、というのが編集長の信念だったから。しかし、常子は編集長に黙って広告を掲載してしまう。
信頼関係で結ばれているはずの二人なのに。純粋な理想に燃えた雑誌作りのはずなのに。
一番こだわっているテーマについて話をきちんと詰めず、編集長に黙って広告を載せてしまうなんて。いくら資金的事情があるとは言え、いくら一度とは言え、こっそりはないだろう。大きな疑問が残りました。
物語の基本的土台となるべき信頼関係が描かれないから、お話が立ち上がっていかない……。
と、各方面から厳しい声が寄せられようとも『とと姉ちゃん』はどこ吹く風。もしかしたら、意図した「逆なで」商法、炎上を狙った話題作り? そうは考えたくはないけれど、途中でふと気付いたのです。
モチーフになっている暮らしの手帖社が、NHKに文句を言わないのだから(元編集部の人は声を上げたけれど一個人)、もはや誰も止めようがないじゃないか、と。『暮らしの手帖』現編集長・澤田康彦氏はこう語っています。
「フィクションでありながら、私たちの主張を代弁してくれている。コラボレーションしているわけではないけれど、結果的に有意義なコラボ作品になっていると感謝しています…資料や役者さんを通じて、雑誌のエッセンスがドラマの中に生きているのは嬉しいですね」(「エンターテインメントステーション」2016.08.26)
そして、暮らしの手帖社の書籍ページには高畑さんの写真と『とと姉ちゃん』の文字が帯に踊りドラマの脚本担当・西田征史氏の文章も収録された、コラボ本がきちんと並んでおりました。
数千万人が毎朝視聴する朝ドラにモチーフとして取り上げられれば、結果として巨大な宣伝に。だから放送局には何も言わない、言えない……編集者・花森安治は、「雑誌が何かのヒモつきになったら終わりだ」と考えていた人。そうした「危うさ」を一番恐れていた人ではなかったでしょうか?
皮肉にも、花森の信念について深く考えを巡らす機会をくれた、今回の朝ドラでした。