昨年8月中旬のロッテHD株主総会で次男側に軍配があがった後も、ロッテの「国籍」を問う報道は鳴り止まなかった。きわめつきが、ソウルで開かれた昭夫氏の会見の際、発音の拙さをわざわざハングル字幕で強調した問題である。
昭夫氏は、幼少期から成人するまでほとんど日本で過ごしたため、発音には自信がない。にもかかわらず、会見では創業家問題で混乱をもたらしたことを自らの言葉で詫びるため、韓国語を選んだ。
昭夫氏の逃げない姿勢は評価されるものだと思ったが、韓国マスコミの論調は揶揄というよりも「愚弄」に近かった。
ロッテ側も黙っていたわけではない。2005年から日本側に配当を始めた経緯について、「同年、日本の国税庁から『38年間にわたり2000億円を韓国に投資したのに、日本に1円も来ていないのは不自然』と指摘されたため」と明かしている。韓国の国富流出どころか、日本の徴税機会が失われていたのだ。
それに2486億ウォンという配当額も、韓国ロッテがこの間に稼いだ営業利益の1%前後に過ぎない。
国税との紳士協定で、最低限の額を日本へ移しているだけだ。さすがにこの説明を受けて、国籍を問う声は、いったんは大人しくなる。それでも日本から韓国への「38年間にわたる投資」に意味を認める向きは皆無だった。そこにこそ、ロッテのアイデンティティがあるにも関わらずである。
※文/ジャーナリスト 李策
【PROFILE】李策/1972年生まれ。朝鮮大学校卒。日本の裏経済、ヤクザ社会に精通。現在は、北朝鮮専門ニュースサイト「デイリーNKジャパン」記者として、朝鮮半島関連の取材を精力的に行っている。
※SAPIO2016年11月号