中国国防法22条には、「人民の武装力は中国人民解放軍および予備部隊、人民武装警察部隊、民兵組織によって構成される」と謳われ、民兵は軍を所掌する中央軍事委員会の指導下にあるが、彼らはフルタイムで軍務に従事するわけではない。その数は10万人以上とも言われるが、正確には判明していない。
この海上民兵が米軍や自衛隊関係者の間で大きく注目されている。近年、急激に活動を活発化させているからだ。
「2009年に海南島沖の公海上で米海軍の音響測定艦インペッカブルが、中国の海上民兵が乗り込んだトロール漁船などから執拗に妨害を受けるということがありました。
南シナ海で中国が進める人工島の埋め立て作業にも海南島などの海上民兵が動員され、さらに昨年から米軍が始めた『航行の自由』作戦に参加したイージス艦が、海上民兵が乗る武装漁船によって取り囲まれるという事態が二度にわたり起きたことを米太平洋艦隊の司令官が今年5月に明らかにしています。
海上民兵は単なる半漁半軍の集団ではなく、米中の軍事的緊張の最前線に躍り出る存在となったのです」(同前)
その海上民兵たちの拠点となる漁村は、東シナ海および南シナ海に面した浙江省から福建省、広東省、海南省にかけての海岸線沿いに複数点在している。 日本の公安当局はその実態の把握に躍起となっている。
「浙江省や福建省などでは海軍の教育施設で海軍兵士と一緒に30日ほどの軍事訓練を受けており、その活動は海軍艦船への燃料や弾薬の補給から偵察、修理、医療など幅広く行います。なかには、機雷の設置や対空ミサイルの使用に習熟した民兵もおり、敵国艦船への海上ゲリラ攻撃を仕掛けるよう訓練された部隊もあるようです」(公安関係者)
この他にも中国が西沙諸島や南沙諸島などに作った人工島をあわせて新設した三沙市への移住を海上民兵に対して促すこともあるという。
1日あたり35元から80元(約500~1200円)の居住手当が支払われるというが、移住先の人工島で漁業などに従事させることで、中国領であるとの既成事実を作り上げようというわけか。この場合の海上民兵は、北海道開拓にあたった屯田兵のようなものだろう。
※SAPIO2016年11月号