「鉛筆」の指摘は内容にまで及ぶことがある。
「小説の連載を担当していたとき、作者と担当編集がその回、その回に夢中になっているなかで、『過去の回の発言と矛盾します』とか、『キャラがちょっと変わっていますが?』などの冷静な指摘をいただき、大変助かったものです」(週刊誌40代デスク)
何十巻にも及ぶ小説になってくると登場人物の設定について作家も編集者もあやふやになっていることがある。久しぶりの人物を作中で活躍させたら、校閲さんから「その人物、先生は10巻前に殺してますよ」と指摘されて慌てた、という笑い話もある。
校閲さんの仕事は人のミスを見つけることなので、鬱陶しがる人もいれば、ミスを校閲さんのせいにする人もいる。
「先輩記者が校閲さんからの指摘について『鬼の首を取ったように指摘をしてくる』みたいに馬鹿にしてた。でもその先輩、訂正記事がやたら多いんです。やはりそういう校閲さんへの感謝の気持ちが薄い人ほど訂正を出すんだなあ、と思ったことがありました」(全国紙記者40歳)
「校閲さんには助けられっぱなしで、頭が下がります。とにかく、とことん調べる。この社の辞典ではとか数種類で鉛筆があり、唸ることしきりです。作家から『校閲の方にお礼をお伝えください』というのも多いですね。ただ、最終責任は担当編集者です。たまに若い編集者が『校閲が間違った』と責任逃れする人も見かけられ、違うだろ、と小さく呟いています」(フリー編集者53歳)
校閲さんは編集者とは違うスタンスからの「ご意見番」と見られているところもある。写真週刊誌のデスクはこんな体験をした。
ある若い女性歌手がデビューした。しかし彼女のプロフィールは謎に包まれていてよくわからない。それで取材したところ、彼女が現役女子高生で、通学しているところの写真が撮れた。その記事に編集長が付けたタイトルが「素顔はこんなにブサイク!」。
「これはさすがに言い過ぎじゃないかと思いました。でも週刊誌では編集長が付けたタイトルは絶対で、一編集部員の感覚だけで覆すことは難しい。困りました」
思案していたところに校閲さんが見たゲラが戻って来た。そのタイトルを丸で囲み「この表現、ヨイ?」と校閲さんの鉛筆が入っていた。
「それが援軍になって、『女子高生にこれはきついですぜ』と編集長を上手く説得してタイトルを変更させることに成功しました」