校閲さんが入れてくるのは「直し」だけではない。
「東日本大震災を取材した本を出したときのことです。ゲラにした際、その校閲さんが通常の朱入れとは別に、付箋に手書きの泣き顔イラスト入りで『泣いてしまいました。』みたいなのを書いてくれました。それはたしかに自分でも心を揺さぶられた取材だったので、伝わってよかったと思いました。その付箋は今も取ってあります」(40代ノンフィクション・ライター)
「ライターになって5年目だったと思う。戻ってきた校閲稿を見たら余白の部分に走り書きを見つけた。『最初の読者になれて幸せです。あなたの原稿はいつも楽しみにしています』。編集者に連絡先を聞いてお礼のメールを送りました」(40歳フリーライター)
最後に本サイトで「大人力」コラムを連載している大人力コラムニストの石原壮一郎氏の想い出を紹介しよう。
「最初の本を出したときに、編集者が『校閲さんも、この本面白いですねって言ってましたよ。めったにそういうことおっしゃらない方なのに』と伝えてくれて、それがとても嬉しくて自信になったのを覚えています。もしかしたら編集者が僕を乗せるための方便だったのかもしれませんけど、だとしても出版界に伝えていきたいノウハウのひとつだと思います。本当に言ってくれている場合は、そのことを著者に伝えたらどんなに喜ぶかについても、編集者の基礎知識として知っておいてもらいたいものです」
外部筆者が「校閲さん」と顔を合わせることはまずない。名前も知らない。しかし朱と鉛筆で埋まったゲラを見るたびに、自分の文章を世に出すために親身になって仕事をしている人の存在に想いを馳せ、心の中で手を合わせるのである。