スポーツ

元カープの競輪選手たち それぞれの競輪転向の瞬間

元広島の塚本善之(左)と兵動秀治

 広島カープが25年ぶりのリーグ優勝を飾った。かつての鯉戦士たちは、その姿をどう見たのか? 第2の人生を歩む往年の選手を訪ねた。

 15年連続Bクラスという暗黒期の始まりである1998年、兵動秀治(1998年~2003年)はドラフト2位で入団。2年目、引退した正田耕三の背番号4を受け継いだ。

「最初は重みがわからず、ラッキーだなという感覚しかなかった」

 首脳陣は主力に育てようとチャンスを与えたが、弱気の虫が顔を出した。

「ベンチにいても、代打に指名されたくない。失敗したら二軍ですから。出番がなければ、まだ一軍に帯同できると考えてしまった」

 二塁のポジション争いは、1年後に入団した東出輝裕に敗れた。

「東出は、絶対にレギュラーを取るという意気込みがあった。僕は野球で飯を食おうという気持ちが足りなかった」

 完全燃焼できなかった兵動は30歳の時、競輪デビューを果たした。

「野球と違って、失敗してもすぐ二軍に落とされるわけではないし、数か月後のレース出場も約束されている。プレッシャーはないですよ。1年でも長く現役を続けたい」

 レースで使う自転車は1台50万円ほど。転倒などで壊れると「修理代も自腹なのでつらい」と語る。

 そんな兵動より先に競輪に転向した鯉戦士もいる。二軍通算7試合、防御率10.00──塚本善之(1988年~1990年)は広島を3年で解雇された。現役中は肩を痛めて、スコア付けに明け暮れる日々。21歳を迎える秋、他の若手選手が教育リーグに行っても自分だけは呼ばれない。解雇を予感した。「来季の契約は結ばない」と通告された後、1人残された寮で寂しく荷物をまとめ、京都の実家へ帰った。

 鉄工所で働きながら、新たな職を探していた時、野球から競輪に転向した元広島・石本龍臣の元を訪ねた。

「もう1度、自分の力で金を稼げる世界で勝負したかった。競輪の世界で強くなって、見返したかった」

 32歳の時、初優勝を飾り、年俸は広島時代の3倍となる1000万円を超えた。その頃、意識的に遠ざけていた野球を素直に見られるようになった。

「今では娘たちと一緒にマツダスタジアムに観に行きますよ。(同世代の)畝龍実コーチも声を掛けてくれます」

 広島は3年で解雇されたが、競輪では現役24年目を迎えた。

「首を痛めた影響で右手に力が入らず、練習もできない。今年限りで引退します。まだ続けたかったけど……」

 引退後に向けて就職先を探している塚本は、「まだ若いのだから上を目指して欲しい」と兵動にエールを送る。来年から、第3の人生が始まる。
(敬称略)

撮影■藤岡雅樹 取材・文■岡野誠

※週刊ポスト2016年10月28日号

関連キーワード

トピックス

米利休氏のTikTok「保証年収15万円」
東大卒でも〈年収15万円〉…廃業寸前ギリギリ米農家のリアルとは《寄せられた「月収ではなくて?」「もっとマシなウソをつけ」の声に反論》
NEWSポストセブン
埼玉では歩かずに立ち止まることを義務づける条例まで施行されたエスカレーター…トラブルが起きやすい事情とは(時事通信フォト)
万博で再燃の「エスカレーター片側空け」問題から何を学ぶか
NEWSポストセブン
趣里と父親である水谷豊
《趣里が結婚発表へ》父の水谷豊は“一切干渉しない”スタンス、愛情溢れる娘と設立した「新会社」の存在
NEWSポストセブン
SNS上で「ドバイ案件」が大騒動になっている(時事通信フォト)
《ドバイ“ヤギ案件”騒動の背景》美女や関係者が証言する「砂漠のテントで女性10人と性的パーティー」「5万米ドルで歯を抜かれたり、殴られたり」
NEWSポストセブン
事業仕分けで蓮舫行政刷新担当大臣(当時)と親しげに会話する玉木氏(2010年10月撮影:小川裕夫)
《キョロ充からリア充へ?》玉木雄一郎代表、国民民主党躍進の背景に「なぜか目立つところにいる天性の才能」
NEWSポストセブン
“赤西軍団”と呼ばれる同年代グループ(2024年10月撮影)
《赤西仁と広瀬アリスの交際》2人を結びつけた“軍団”の結束「飲み友の山田孝之、松本潤が共通の知人」出会って3か月でペアリングの意気投合ぶり
NEWSポストセブン
米利休氏とじいちゃん(米利休氏が立ち上げたブランド「利休宝園」サイトより)
「続ければ続けるほど赤字」とわかっていても“1998年生まれ東大卒”が“じいちゃんの赤字米農家”を継いだワケ《深刻な後継者不足問題》
NEWSポストセブン
田村容疑者のSNSのカバー画像
《目玉が入ったビンへの言葉がカギに》田村瑠奈の母・浩子被告、眼球見せられ「すごいね。」に有罪判決、裁判長が諭した“母親としての在り方”【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
アメリカから帰国後した白井秀征容疑(時事通信フォト)
「ガイコツが真っ黒こげで…こんな残虐なこと、人間じゃない」岡崎彩咲陽さんの遺体にあった“異常な形跡”と白井秀征容疑者が母親と交わした“不穏なメッセージ” 〈押し入れ開けた?〉【川崎ストーカー死体遺棄】
NEWSポストセブン
赤西と元妻・黒木メイサ
《赤西仁と広瀬アリスの左手薬指にペアリング》沈黙の黒木メイサと電撃離婚から約1年半、元妻がSNSで吐露していた「哺乳瓶洗いながら泣いた」過去
NEWSポストセブン
元交際相手の白井秀征容疑者からはおびただしい数の着信が_(本人SNS/親族提供)
《川崎ストーカー死体遺棄》「おばちゃん、ヒデが家の近くにいるから怖い。すぐに来て」20歳被害女性の親族が証言する白井秀征容疑者(27)の“あまりに執念深いストーカー行為”
NEWSポストセブン
不倫疑惑が報じられた田中圭と永野芽郁
《永野芽郁のほっぺたを両手で包み…》田中圭 仲間の前でも「めい、めい」と呼ぶ“近すぎ距離感” バーで目撃されていた「だからさぁ、あれはさ!」
NEWSポストセブン