同時期を生きた2人の天才画家の関係に焦点を当てた日本初の展覧会『ゴッホとゴーギャン展』。NHK Eテレ『日曜美術館』でおなじみだった作曲家の千住明さんが、作品だけでなく、2人のドラマチックな物語を、千住さんの視点からわかりやすく紐解く――。
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変化することを恐れない生粋のアーティスト気質を持ったゴッホと、自分がなすべきことをわかった上で、その道を着実に歩んでいったゴーギャン――同時期に生まれた2人の天才が、その情熱のすべてを注ぎ込んだ作品を堪能するだけで、どこか心が満たされたような気になります。でも、それだけで満足していては、『ゴッホとゴーギャン展』の真の素晴らしさに近づくことはできません。
時代は近代化に沸くパリ。ロートレック、ベルナールといったキラ星のように輝く画家が、ポスト印象派の扉をこじ開けようとしていた1887年冬――生まれた場所も、育った環境もまるで違う2人が出会ったことではじまるひとつの物語はドラマチックで波乱に満ちています。
この時、ゴッホは34才。ゴーギャンは5つ上の39才。ともに画家としての「個性」を見つけようと、必死にもがきながら、自分の信じる絵を描き続けていたことは、今回の展覧会に出展されているそれぞれの初期の作品からも充分にうかがえます。
そこから舞台は、2人が共同生活をした、南フランスのアルル地方へ。時にはイーゼルを並べ互いの技法や表現をぶつけ合い、また時には激しい議論を重ねながらその命を燃やします。その証として残したのが、展覧会の中間点あたりに展示された2枚の『収穫』。互いに、この時期の最高傑作と認める今回の目玉は、ため息が出るほど素晴らしく、ただただ、圧倒されるばかりでした。
しかし、そこからドラマは一転します。わずか9週間で共同生活は終わりを迎え、精神を病んだゴッホは自ら耳を切り落としますが、ある境地に達したのでしょう、その使命を終える37才までに言葉にできないほどの素晴らしい絵を描き続け、一方のゴーギャンは、ひたすら自分の道を突き進み、54才でその生涯を終えます。
そして――展覧会の最後を飾るのは、ゴーギャンが残した一枚の絵。ゴッホが大好きだったひまわりと、ゴーギャン自身を指す『肘掛け椅子』。この作品によって、人生のある一瞬だけ交わったために、その後もお互いを支配され合ってしまった2人の長いドラマは完結を迎えます。
現実を描いたゴッホと、記憶と想像で描いたゴーギャン。2人の大巨匠が生まれた時代、生きた時間を感じながら見ていくと、絵の素晴らしさだけではない、壮大な人間ドラマが浮かび上がってくるはずです。
※女性セブン2016年11月3日号