オバマ大統領がイランとの関係を改善した目的は、イスラム教スンナ派過激組織「イスラム国」(IS)の殲滅をイランが本気で意図していることを念頭に置き、IS掃討作戦でのイランの協力を得たかったからだ。
確かに、シリアとイラクにおいては、ISを除去するために米国とイランの協調関係が構築された。しかし、イランは米国の譲歩を善意とは考えず、米国が弱体化した証左とみなして、バーレーンではイランと同じ12イマム派のシーア派を、イエメンではシーア派系のフーシー派を支援し、アラビア半島におけるシーア派勢力の巻き返しを図った。その結果、サウジアラビアと米国の間にすきま風が吹き始めた。
今年1月のサウジアラビアとイランの国交断絶に至った。さらにサウジアラビアはロシアに接近し、ロシアから原発プラントを輸入しようとしている。サウジアラビアからすれば、シリアやイラクがイランに席巻されるよりは、ISが残っていた方がまだましなのである。
中東の複雑な政治力学をオバマ大統領は理解していなかった。そのために、アラビア半島におけるスンナ派とシーア派の均衡を崩してしまった。このことが、中東の大混乱を発生させ、結果として世界的規模でのエネルギー危機を引き起こすことになるかもしれない。
オバマ政権は、イラクやアフガニスタンなど、共和党のブッシュ政権が軍事介入を行った結果生じた負の遺産を米軍の撤退により克服しようとした。しかし、これらの地域がどうなっても米国だけが安全ならばよいという孤立主義的な姿勢を取ることはできなかった。
自由と民主主義、人権の擁護者として、軍事面を含め国際問題に関与し続けるという姿勢もとった。孤立と関与を適用する基準は、そのときの米国世論に支配され、場当たり的なものになった。
その結果、イラクでは米軍の撤退がISを生みだした。これに対して、アフガニスタンでは、過激派のタリバンがISと連携する動きを見せたために、米軍の撤退を断念することを余儀なくされた。オバマ大統領の場当たり的対応をチェンジさせるには、トランプ氏のような孤立主義者が大統領になるしかないというのが米国の現状だ。
※SAPIO2016年11月号