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福祉車両の「普通のクルマ化」を目指し挑戦続けるトヨタ

「超高齢・少子化社会を迎えている日本で福祉を考える場合、私たちが解決を迫られている最大の課題は、高齢者のかたの移動です」

 トヨタ自動車 福祉車両製品企画主査の中川茂さんは、そう話す。2001年にトヨタの福祉車両部門である「ウェルキャブ」開発部へ自ら異動を希望したという中川さんは、深刻化する高齢者の引きこもりをなんとか解消したい、と言う。しかし“福祉車両”となると、ハードルが高くなる。

「たとえば、障害がある家族の場合は、クルマの必要性がありますよね。仕事に行くとか養護学校に行くとか。しかし、それが年老いた両親となると、これは非常にシビアな現実ですが、果たして高額な介助用の車両に買い替えよう…と思うかどうか。たとえ気持ちはあっても、すでに介護だけでも大変なのに、それ以上お金と手間をかけられる余裕はない、というのが現実だと思うんです」

 そこで中川さんが考えたのが、助手席回転チルト(傾く)シート車。従来の電動で昇降するリフトアップシートと違い、手動でシートを回転させ、ちょっと前に傾けることで、乗り降りを楽にするというもの。体が自然に前傾するから、介護する人も受け止めやすいという仕組みだ。税制などの問題で、結局3万円ほどしか価格は下げられなかったが、これなら一般車両とほぼ変わらない。トヨタの人気車種のほとんどで装着が可能だ。

 また、中川さんは、介護される側の言葉にできないストレスも見逃せないと言う。

「ある女性のお客様が、足の不自由なお母さんを、もっと外に連れ出したいと高額な車いす仕様車を購入なさったんです。ところがお母さんは3回ほど乗られたあと、もうクルマでは出かけたくないと。こっそり理由を聞いてみたら、車いすが車の中でがたついて非常に乗り心地が悪かった。でも、娘にはそんなこと、心苦しくて言えなかった…と。そこで私はウェルキャブ用車いすも開発しちゃいました(笑い)」

 誰も置いてきぼりにしない、誰も我慢しなくていい、福祉車両の“普通のクルマ化”を目指して、これからも中川さんの挑戦は続く。

※女性セブン2016年11月3日号

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