厚労省が訴訟に神経質になっているのは、この7月、東京高裁でもう一つの重大な年金訴訟の判決が下されたからだ。それが、「消された年金」である。

 10年前に発覚した5000万件の持ち主が不明の年金記録、いわゆる「消えた年金」は時の安倍政権を揺るがす政治問題に発展したが、実は、その過程で年金官僚によるもっと悪質な「消された年金」があることが浮かび上がった。

 社会保険庁の役人たちが、経営難などで厚生年金の保険料を滞納している企業の経営者に対し、「社員の給料を低く見せかければ納める保険料は少なくて済む」とそそのかして年金記録を訂正させ、厚生年金脱退まで勧めていたのだ。

 会社が社員の給料(標準報酬月額)を実際より低く申告すれば、当然、社員が将来受け取る年金は減る。まさに年金官僚の都合で「消された年金」といえるが、年金記録に国民の関心が集中し、より事件性が高かった年金記録改竄問題は現在も闇に包まれたままほとんど解消されていない。社会保険労務士の北村庄吾氏が語る。

「消えた年金は社保庁の作業ミスですが、消された年金は意図的な年金記録の改竄です。原因は社会保険料が高いこと。消された年金問題が発覚した当時、月給30万円の社員の場合、保険料は本人と会社が3万6000円ずつでした。この保険料負担が会社には重く、業績が悪くなると滞納してしまう。

 そうすると社会保険庁は会社の資産を差し押さえなければならないが、現金の回収にはつながらない。そこで、社保庁の職員が会社に支払えるだけ保険料を払ってもらい、経営者に社員の給料の改竄を提案して全額払ったように辻褄を合わせる不正が横行していた」

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