具体的にはどんなケースがあるのか。本誌は年金記録の修正を審査するために総務省に設置された『年金記録確認中央第三者委員会』(平成27年2月末に閉鎖)の内部資料を入手した。
「一般(非公開)資料」と印字された文書は、年金記録が訂正されるか否かのポイントをまとめた“判例集”で、この中に「消された年金」の典型的な事例が出てくる。
一つは給料の大幅減額ケース。A氏は平成3年からほぼ1年半の間、月給約47万円でその分の年金保険料も天引きされていた。だが、会社は平成5年に厚生年金を脱退(資格喪失)し、その際に平成3年まで遡ってA氏の月給は「8万円」だったと修正していた。その結果、A氏の支払った年金保険料は実際より少なく記録され、もらえる年金は減る。滞納した保険料を穴埋めする手口である。
なんと50年前から年金記録の改竄が行なわれていたことがわかる事案もあった。Bさんは昭和43年4月末まで会社に勤務し、社会保険料も納めていた。ところが、社会保険事務所の記録では会社は昭和42年9月に厚生年金を脱退(資格喪失)したことになっており、半年分の年金加入歴が消されていた。
第三者委員会はBさんの「雇用保険」(失業保険)の離職日の記録から半年分の厚生年金加入期間は「あった」と判断した。
2つの事例は給与明細や雇用保険が証拠となって救済された。しかし、証拠があっても安心はできない。
文書のBさんの事例の項には、〈申立人の記録のみでは、遡及改訂がなされたとは判断できないが、他に多く遡及訂正がなされた記録があり、申立人についても認められた〉と書かれている。要は“他にも似たような申し立てがあったからBさんも救済した”という、何ともいい加減な理由だったのだ。
「消された年金」を取り戻すのは難しく、救済されたのはごく一部だ。
※週刊ポスト2016年11月18日号