妹や弟とは絶縁状態。他に頼れる相手もいない。周りに心を開かず、意思疎通が苦手で、真面目だがプライドが高く、空気を読むことができない。大統領を知る様々な人が語るような孤独で人を寄せ付けない性格なら、マインドコントロールでなくとも、心を許す相手のみに依存し続けるのは当然だったのではないかと思う。
それだけ朴大統領の心の中に入り込んでいる崔容疑者。その存在を切るには、かなり強い心理的抵抗があるはずだ。朴大統領の舌は、もしかすると、そんな心理的抵抗の表れかもしれない。
日を追うごとに次々と明るみになる事実に、大統領の退陣を求め行われた抗議デモに集まったのは数10万人ともいわれ、今や支持率は過去最低の5%。
それでも退陣を否定し、混乱した政局を収拾するため丁世均(チョン・セギョン)国会議長と会談。並んで椅子に座ったのだが、身体を相手の方へ向けたのは朴大統領だけだった。
指名した首相人事を撤回して、国会に首相候補を推薦するよう要請したというが、丁国会議長は椅子の肘かけを握り、朴大統領が話していても、硬い表情で正面を向いたまま。大統領の方に顔を向けて頷いたかと思ったら、一瞬、両膝にギュッと力が入り、わずかに膝頭がくっつくように縮まると、ちょっとだけつま先が内側に。
身体の向きは感情や気持ちに正直といわれている。特につま先は、相手に対する好感度や関心の高さなどが出やすい部分。
普段から丁国会議長の座り方がそうなのか、それともカメラが入っているから正面を向いたままなのか。身体やつま先の向きを見る限り、国会の入口では、退陣要求のプラカードを持った野党議員たちが並び、支持率は歴代政権で最低になったしまったという大統領とは、心理的に距離を置きたいと思っていたとしても不思議ではない。
国民からの支持が高ければまだしも、今さらねぇ…と思ったかどうかは定かではないが、そんな気持ちが透けて見えそうだ。
そんな丁国会議長の横で朴大統領は、精神的な苦痛が大きかったのか、膝の上で伸ばした指を組み合わせていた。首相候補を推薦要請する時は、その苦痛から、無意識のうちに気持ちをなだめようとしたのだろう。上に重ねた親指で組んだ手を静かに撫でていた。
気持ちを落ち着かせてくれるのも、頼れるのも、もはや自分しかいない…という心理状態の表れか。
「検察の捜査を受け入れる覚悟」と談話で述べながら、現職大統領では初という事の重大さにゴクリと唾を飲み込んだ朴大統領。残るも退くも、待っているのは無惨な最後。歴代大統領のほとんどが悲惨な末路を迎える韓国だが、何もこの歴史を踏襲することはなかったのに、と思う。