◆一度は認めたのに
佐川印刷に湯浅氏の書簡の中身について訊いたが、同社の代理人弁護士は「そのような事実は一切ございません。事件の捜査が継続していることに鑑み、現時点において、一切のコメントを差し控えます」と回答した。一方、名前の挙がった佐川急便は「事実無根」ときっぱり否定する。
実は、湯浅氏は同社が事件について内部調査した報告書の中で、一度は自分の「独断」だったと認めている。
〈取締役会の承認及び他の役員等の報告を経ず、私の独断で佐川印刷グループから資金流出させています〉(報告書内の湯浅氏の発言より)
湯浅氏がこの書簡を書いた背景には、この報告書の内容を否定する意味があったと考えられるが、それならばなぜもっと早く訂正しなかったのか。1年8か月もの海外逃亡の末、拘束されてからの主張には説得力が欠ける点がある。
京都地検はこの手紙をどう捉えているのか。事件を追っている大手紙記者はこう言う。
「全容を知る湯浅氏の約2年ぶりの証言として、検察も無視はできない。木下会長が、不正流用について承知していたかどうかの捜査は、湯浅氏の送還を待って進められることになる。当然だが、証言だけで具体的な物証がなければ“単独犯”という検察の見立ては崩れないだろう」
湯浅氏は周囲に「帰国したらすべてを話す」と話しているという。離婚して家族との縁を切り、地位と仕事と資産のすべてを失った湯浅氏。公判で、「闇に消えた90億円の真相」は明かされるのか。
※週刊ポスト2016年11月25日号