特筆すべきは、冒頭に紹介した藤原道長の記事が掲載されたのと同じ号にある〈在米日系人医学調査からみえてくる、食習慣の欧米化と肥満・糖尿病〉という特集である。
「生活習慣の欧米化」を議論するなら普通は日本の食生活の変化を追究するところだろう。しかし、同特集では「在米日系人の体型が3世代以上にわたってどう変化していったか」についてまで触れている。その結果、〈肥満を防ぐためには日本式の食習慣を身につけておくことはきわめて重要〉と結論づけた。
大規模な調査結果が報告されたかと思えば、同じ号の最後の記事では「お惣菜」を徹底研究している。題して〈糖尿病食事療法における中食(弁当・惣菜)の活用〉。日本で外食産業やインスタント食品が普及した過程を論じたうえで、弁当や惣菜を買い、家で食べる「中食」という文化が根付いていく様子を、日本惣菜協会が発行する『惣菜白書』のデータをもとに述べていく。
〈2014年の惣菜白書によると、惣菜市場規模は、2003年の6兆9684億円から2012年は8兆5137億円、2013年(見込み)では8兆7142億円と、この10年で大きく拡大している〉
と、惣菜市場の大きさに言及したうえで、
〈このように調理食品(中食)が伸びてきた促進要因としては、社会的動態変化として、2008年から人口減少社会に突入し、さらに有職主婦の増加、単身世帯の増加など、食生活を含めた家事代行サービスやミールソリューション(食事に関する問題解決)を必要とする社会基盤が広がっていることが大きいといわれている〉
こちらも糖尿病専門誌とは思えない深淵な内容だ。一見糖尿病と関係ないように思えるところまで踏み込んでいるが、それが好調の秘密だと前出・村越氏が明かす。
「たとえば、糖尿病の合併症ともいわれる『歯周病』を特集した号は歯科医に、失明に至ることもある『糖尿病網膜症』を特集した号は眼科医が多く手に取ってくださったおかげで、完売、増刷に至っています。糖尿病に関連する、周辺の話題を拾っていくことで今後も部数を伸ばしていきたい」
ベストセラー医学雑誌、恐れ入りました。
※週刊ポスト2016年11月25日号