前回話したように、馬との相性でジョッキーが替わることがあります。しかしやむをえず「替えたほうがいい」という場合もあります。
同じ失敗を3回繰り返すと厳しい。たとえば、1走目は引っ掛かるのを怖がって後ろから行った。それで競馬にならなかったのに2回目も3回目も同じような騎乗になってしまった場合。レースは天候や芝状態、展開にも左右されますが、明確になった課題の改善がなされないということですから。そこは勝負の世界、厳しくいきます。
さて、そういった事情は、馬には分かるのでしょうか。
「前走、ああいうレースをしちゃったから、今度は違うぞ」、「雪辱するぞ!」という思いはたぶんない。いかにジョッキーの指示に従順になれるか、です。
ただし調教を積み重ねた陣営の思い入れは、必ず馬には伝わると信じます。
ところで、調教師は馬に好かれているのでしょうか。どうもそうではないようです。鞭を振るうジョッキーを束ねるボスですから。「自分をいたぶるような指示を出してるんじゃないか?」などと、頭のいい馬は思っているのかもしれません。
●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。中尾謙太郎厩舎、松田国英厩舎の調教助手を経て2000年に調教師免許取得。2001年に開業、以後15年で中央GI勝利数23は歴代2位、現役では1位(2016年11月6日終了時点)。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカ、エピファネイア、サンビスタなど。
※週刊ポスト2016年11月25日号