故・原節子さん(享年95)をはじめとして、多くの文化人が「終の住処」として選んだ神奈川県鎌倉市。赤い鳥居の『鶴岡八幡宮』や『高徳院』の大仏様、あじさいが美しい『長谷寺』など、京都とはまた違った古きよき日本を感じられる唯一無二の街ともいえよう。
そんな厳かな響きがある一方で、新しい風も感じられる。たとえば、2008年鎌倉市七里ガ浜にオープンした『bills』。オーストラリア発のこの店が、昨今の「朝食」「パンケーキ」ブームを巻き起こした。
「鎌倉といえば、雪ノ下エリアがいちばんだね。その辺は養老孟司さん(79才)や辰巳芳子さん(91才)ら、そうそうたる顔ぶれが住む、泣く子も黙る高級住宅街ですよ」
鎌倉市民がそう話すように、地元住民ならば一度は憧れるというのが雪ノ下。駅前の小町通りを抜け、『鶴岡八幡宮』の傍にある『旭屋本店』は、漫画『海街diary』にも登場した豆大福が大人気。1905年の創業から数えて4代目となる同店女将の石井純子さんが誇らしげに話す。
「東京に近いのに、海も山も、有名な神社仏閣もたくさんある。観光客が多いのに道が狭いと言われるけれど、もともとここは源頼朝さんが敵に攻められないよう、馬が通りにくいように、わざと狭くつくった道。その不便さもあえて変えないところに、鎌倉の歴史を感じるのです」
由比ガ浜や七里ガ浜などに、新しい店ができて発展していくことに対しては「何とも思わない」そう。
「鎌倉に代々住んで、家族で店を継いでいくことに誇りを持っているので、他の地域から憧れて越してこられるかたはお客さんというイメージですね」(石井さん)
「雪ノ下」から徒歩15分。同じく高級住宅地であり、かつて小津安二郎(享年60)も住んでいた北鎌倉住民の中には、「七里ガ浜って、潮風のせいでいろんなところがサビついている場所ですよね」と上から目線で話す人もいる。
「でも今は、芸能人のかたが住んでいたり、お店がテレビで紹介されたりして、勘違いしたんですかねぇ…。どうも七里ガ浜がステータスの高いところと思ってしまっているようで、私たちからしてみれば失笑ものです」(北鎌倉住民)
しかし、こういった冷ややかな視線にも由比ガ浜や七里ガ浜の住人たちはどこ吹く風。
「昔がどうとか、関係なくここはいいとこですよ。海が近いから眺めが最高だし、桑田佳祐(60才)の大ファンだから、近くに『サザン通り』があるのも誇らしいです。ただ、この辺は別荘族が多いから、鎌倉に憧れて東京から越してきてこのあたりに住み始めるサラリーマンを見ると、“大丈夫かな”“なじめるかなぁ”なんて心配しちゃうんです」
移住しなくとも、この地には連日日本中から多くの人がやって来る。東京だと品川から横須賀線で約1時間半。決して近いとはいえないのに…。
『最後から二番目の恋』(フジテレビ系)のカフェのモデルとして一躍有名になった古民家カフェ『cafe坂の下』の店長・浅田麻由さんが証言する。