「自らの半生を見つめ直し、それを書き記すことによって俯瞰して、自らの不幸を乗り越える一助としたい」。栃木県の吉岡清子さん(62才)は、そんな思いから手記を寄せた──。
大手電気工事会社の下請け会社を経営していた吉岡さんの夫は14年前、55歳であっけなくこの世を去った。「鬼の親方」と恐れられていた夫が亡くなると、問題行動が多かった長男が引きこもり状態になったのだ。
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家の中で生ごみ化している息子を、このまま放っておくわけにはいきません。顔を合わせれば、息子を責めたて、「出て行けっ!」と床のごみを投げつけると、「てめえこそ出て行け。おれは長男だ。ここはおれの家だ」と、息子も投げ返してくる。
こんなことをいつまでしていても何にもなりません。何とか抜け出す道はないか。私は、市役所、病院、保健所と、思いつく限り走り回りました。そしてたどり着いたのが児童相談所でした。
息子の機嫌をとって検査にこぎつけた結果、診断されたのが「学習障害」です。こだわりが強く、ひとつのことに異常なまでに興味を示す、という診断でしたが、腑に落ちるところもあれば、まったく違うと思う点もあります。
引きこもっていた時期の息子のこだわりはゲーム。昼夜、逆転の生活で、部屋は荒れ放題になりましたが、18才の誕生日の直前になると突然、「運転免許を取る」と、自動車学校に通い出しました。朝から晩まで、車、車、車。あっという間に運転免許を取った息子は、とても生き生きしていました。
思えば、子供の頃からそうでした。私に期待を持たせることが、ときどき起こるのです。この時も、運転免許を取ったことがきっかけになって、仕事に就いてくれるのではないかと、そう思った矢先です。
「車、これに乗るから」と、私の前に差し出したパンフレットは、日産ウイングロードのライダーで250万円。
「仕事もしないで、新車に乗るの!?」
期待した分、息子の行動に腹を立て、ついつい言葉が激しくなってしまいます。
「新車にでも乗らねえと、誰も相手にしてくれねぇんだよ」