ライフ

【書評】イトマン事件 告発者が炙り出した住友銀行の闇

【書評】『住友銀行秘史』/國重惇史著/講談社/本体1800円+税  

【プロフィール】國重惇史(くにしげ・あつし)/1945年山口県生まれ。元住友銀行取締役。東京大学経済学部卒業。1997年に住友銀行を出て、その後楽天副社長、副会長など楽天グループの要職を経て、現在リミックスポイント会長兼社長。  

【評者】鈴木洋史(ノンフィクションライター)

 驚愕の内容である。巨額の経済事件について、関係者が、ここまで詳細かつ生々しく内幕を公にすることは珍しいのではないか。

 バブル末期の1990年から1991年にかけて表沙汰になり、「戦後最大の経済事件」と言われるイトマン事件。大阪の中堅商社イトマンを舞台に起こった不正経理事件で、メインバンクである住友銀行から千億単位の巨額資金が闇社会に流れたとされる。磯田一郎会長が辞任に追い込まれ、その側近で元住銀常務だったイトマン社長や、闇社会と繋がり、イトマンと住銀を喰い物にした人物らが特別背任容疑で逮捕され、懲役刑が科された。

 本書は、当時、住銀中堅幹部の部長職にあり、事件を告発し、住銀とイトマンの正常化を目指した勢力の急先鋒だった著者が、手帳につけていた詳細な記録を公開し、それをもとに銀行内外の動きを明かした手記。人物名はほとんど実名である。事件の最中、何通もの内部告発文書が大蔵省、マスコミなどに送られ、その“犯人”は特定されなかったが、実は著者だった。それも公開している。

〈住友銀行が(中略)闇の勢力に喰い物にされようとしている。私にはそのことへの危機感が強烈にあった〉〈真実を解明したかった。そして住友銀行を救いたかった〉

 その思いに駆られ、著者は銀行内外のネットワークを使って情報収集し、正常化に向けて立ち上がるよう役員らに働き掛け、記事を書いて圧力をかけるようマスコミに協力も仰いだ。著者のネットワークには、経済界のフィクサーから電話を取り次ぐ末端の役員秘書や役員専用車の運転手まで含まれ、情報収集能力の高さに舌を巻く。

関連キーワード

関連記事

トピックス

大谷翔平がこだわる回転効率とは何か(時事通信フォト)
《メジャー自己最速164キロ記録》大谷翔平が重視する“回転効率”とは何か? 今永昇太や佐々木朗希とも違う“打ちにくい球”の正体 肩やヒジへの負担を懸念する声も
週刊ポスト
竹内朋香さん(27)と伊藤凛さん(26)は、ものの数分間のうちに刺殺されたとされている(飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
「ギャー!!と悲鳴が…」「血のついた黒い服の切れ端がたくさん…」常連客の山下市郎容疑者が“ククリナイフ”で深夜のバーを襲撃《浜松市ガールズバー店員刺殺》
NEWSポストセブン
和久井学被告と、当時25歳だった元キャバクラ店経営者の女性・Aさん
【新宿タワマン殺人・初公判】「オフ会でBBQ、2人でお台場デートにも…」和久井学被告の弁護人が主張した25歳被害女性の「振る舞い」
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(Instagramより)
《愛するネコは無事発見》遠野なぎこが明かしていた「冷房嫌い」 夏でもヒートテックで「眠っている間に脱水症状」も 【遺体の身元確認中】
NEWSポストセブン
『凡夫 寺島知裕。「BUBKA」を作った男』(清談社Publico)を執筆した作家・樋口毅宏氏
「元部下として本にした。それ自体が罪滅ぼしなんです」…雑誌『BUBKA』を生み出した男の「モラハラ・セクハラ」まみれの“負の爪痕”
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年6月4日、撮影/JMPA)
「佳子さまは大学院で学位取得」とブラジル大手通信社が“学歴デマ報道”  宮内庁は「全報道への対応は困難。訂正は求めていません」と回答
NEWSポストセブン
米田
「元祖二刀流」の米田哲也氏が大谷翔平の打撃を「乗っているよな」と評す 缶チューハイ万引き逮捕後初告白で「巨人に移籍していれば投手本塁打数は歴代1位だった」と語る
NEWSポストセブン
花田優一が語った福田典子アナへの“熱い愛”
《福田典子アナへの“熱い愛”を直撃》花田優一が語った新恋人との生活と再婚の可能性「お互いのリズムで足並みを揃えながら、寄り添って進んでいこうと思います」
週刊ポスト
生成AIを用いた佳子さまの動画が拡散されている(時事通信フォト)
「佳子さまの水着姿」「佳子さまダンス」…拡散する生成AI“ディープフェイク”に宮内庁は「必要に応じて警察庁を始めとする関係省庁等と対応を行う」
NEWSポストセブン
まだ重要な問題が残されている(中居正広氏/時事通信フォト)
中居正広氏と被害女性Aさんの“事案後のメール”に「フジ幹部B氏」が繰り返し登場する動かぬ証拠 「業務の延長線上」だったのか、残された最後の問題
週刊ポスト
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《ブログが主な収入源…》女優・遠野なぎこ、レギュラー番組“全滅”で悩んでいた「金銭苦」、1週間前に公表した「診断結果」「薬の処方」
NEWSポストセブン
ホストクラブや風俗店、飲食店のネオン看板がひしめく新宿歌舞伎町(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」のもとにやって来た相談者は「女風」のセラピスト》3か月でホストを諦めた男性に声を掛けた「紫色の靴を履いた男」
NEWSポストセブン