反対論者に共通するのは生前退位を認めた場合、皇位継承をめぐる争いや天皇と前天皇(譲位した天皇)との関係が、政治混乱を招きかねないという危惧だ。
“有識者”らが会議後に会見で明かした内容や官邸が公開した議事録から、論拠を見ていく。
平川東大名誉教授(比較文学)は有識者会議で「世間の同情に乗じ、特例法で対応するならば憲法違反に近い」と述べた上で、こう指摘した。
「元天皇であった方には、その権威と格式が伴います。そのため皇室が二派に割れるとか勢力争いが起きやすくなります。そうなると、配偶者の一族とかその方の実家、その人が属している省庁とか企業とかの政治介入や影響も無視できなくなります」
笠原英彦・慶応大教授(日本政治史)やジャーナリストの櫻井よしこ氏も同じ理由で反対した。
「天皇の地位の安定性を損なう恐れがある。前天皇と現天皇の共存は、天皇の統合力の低下を招き『国民統合の象徴』の形骸化につながる」(笠原氏)
「譲位については賛成致しかねる。(明治政府の)先人たちは、皇室と日本の将来のため、歴史上頻繁に行なわれてきた譲位の制度をやめた。皇室には、何よりも安定が必要だ。歴史を振り返れば、譲位はたびたび政治利用されてきた。現在の日本で考えられなくとも100年、200年後はどうだろうか。国の在り方は長い先までの安定を念頭に置き、万全を期すことが大事だ」(櫻井氏)
大原康男・國學院大學名誉教授(宗教学)は、天皇の自由意思による譲位を認めるならば、皇位に就かないという「不就位」の自由も認めなければならないという意見があることを紹介した。
「高尾亮一さん(戦後の皇室典範改正の起草者だった宮内官僚)によれば、論理的に退位を認めるならば相対的に不就位の自由も認めなければ首尾一貫しないが、当時の皇室典範の審議の中で不就位の自由を主張した者は一人もいない(中略)天皇の制度自体が基本的人権の例外」
譲位を認めるなら、将来「天皇になりたくない」という皇族が出てきたらどうするかの議論もしなければならない、という問題提起だ。
写真■日本雑誌協会代表取材
※週刊ポスト2016年12月9日号