持っていたイメージと現実や目に飛び込んでくる映像が違う時や、物事の関連性がわからない時、心の中にはギャップが生じてくる。ギャップが生まれると「なぜ?」という気持ちが働き、その疑問を解消するべく興味や好奇心がわいてくる。特に、理解できない物事や脈絡のない行動は、大きなギャップを生じさせやすい。
ピコ太郎は、そのギャップをうまく利用し、見ている人が想像するイメージを次々と裏切っていく。たたみかけるようにギャップを積み重ねさせ、より強い興味や関心を引き起こさせる。次から次へと生じるギャップの「なぜ?」が連鎖反応を起こし、興味や関心が高まっているうちに曲が終了。面白い! 楽しい! という感情がより印象づけられる。
ここで忘れてならないのは、やはりジャスティン・ビーバーだ。ピコ太郎という無名に等しい存在と、世界的に著名なアーティスト、ジャスティン・ビーバー。この2人の間のギャップが大きく、ジャスティン・ビーバーのお気に入りなら、きっと面白いに違いないという期待と思い込みが、人々の好奇心をさらにかき立てた。
他にも理由はいくつかある。まずは、意味不明の歌詞。歌に感情移入する必要も考える必要もなく、誰もがただ楽しく面白く歌って踊って、アレンジできる。
振り付けがゲイっぽく、ユニセックスであったことも大きい。柔らかく揺れる衣装に、小指を立てた腕の上げ方やかわいいステップで、“怖カワ”を演出。年齢や性別に関係なく受け入れられやすい。
さらに、ピコ太郎がメガネをかけていたこともポイントだ。ピコ太郎の目は、メガネが反射していてほとんど見えない。だが時々、メガネの奥から上目使いでこちらを睨んでいるような目が、チラチラと映る。
もしも曲の出だしに、ちょっと暗そうな目でメガネ越しに上目使いでジッと見られたら、気持ちが引いたかも。もしもあの目がずっと見えていたら、心地悪さを感じて曲に集中できず、印象は違ったものになっていたかもしれない。メガネ越しに上目使いで見られると、人は疑われたり、詮索されたり、評価されるのではないかと感じて緊張したり、心を閉ざしやすくなるからだ。
そしてもう1つは、ピコ太郎が向く方向。
人は左回りに動き、目線を左から右へ、上から下へ動かす習性があるといわれる。スーパーの売り場に左回りが多いのも、魚売り場の魚が、みんな頭を左向きにしているのもこのため。だから、視覚的に最初に認知しやすいのが左側になる。
ピコ太郎はタイトルの時もフレーズを強調する時も、向かって左を向く。ステップを踏んで回るのも向かって左。そのため、見ているこちらは、ピコ太郎の動きを瞬時に認識でき、違和感なく視線が動くのだ。左向きは、見ている側にストレスを感じさせない動きといえる。
プロデューサー・小坂大魔王の才能と計算(偶然?)に、幸運が重なって大ブームを巻き起こしたピコ太郎。特別枠での出場が決まっているというNHK紅白歌合戦が楽しみだ。