国内

「差別認定」という善意の政治は差別の総量を少しも減じない

評論家の呉智英氏

 10月、沖縄県東村高江周辺の米軍北部訓練場内のヘリパッド建設に抗議する人々に対し、大阪府警機動隊員が「土人」や「シナ人」と発言してから1か月以上が過ぎたが、波紋は今もおさまらない。そもそも「土人」という言葉は差別語なのかについて論じた評論家の呉智英氏が、差別を認めることが果たして差別を減じることにつながっているのかについて論じる。

 * * *
 沖縄で機動隊員が口走った「土人」「支那人」問題は予想以上に根が深い。ここで根が深いというのは、日本人の差別意識には根深いものがあるという意味ではない。日本人の差別意識については別途考察するとして、今回感じるのは、ジャーナリズムに代表される知識人世界が俗論に深く侵蝕されているという現実だ。

 11月8日朝日新聞のWEB RONZAに三島憲一が「土人、シナ人…復活する差別語・侮蔑語」を執筆している。プリントを取り寄せて一読したが、とてもニーチェ学者が書くものとは思えない。

 ニーチェはしばしば誤解されているけれど、反ユダヤ主義者ではない。19世紀末ドイツに広がる反ユダヤ主義を明確に批判し、反ユダヤ主義的俗物の傾向のあったワーグナーと決別もしている。ニーチェが「畜群」と罵ったのは、中途半端に豊かになり中途半端に知恵をつけた「衆愚」の隠喩だと解した方が分かりやすい。だからこそ、没後一世紀以上経て今なおニーチェは有効なのだ。いや、専門家には釈迦に説法だった。

 三島は俗論をそのまま信じているが、そもそも「土人」も「支那人」も差別語ではない。土人を差別する言葉も支那人を差別する言葉も別にある。あまりにも下品・低劣な言葉で、日本を代表する高級誌「ポスト」にふさわしくないから、私は書かないだけだ。件の機動隊員やネット右翼は、下品な上に無知だから、かえってそういった差別語を知らないのだろう。しかし台湾の支那人は本土の支那人をそうした差別語で呼ぶ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

近年ゲッソリと痩せていた様子がパパラッチされていたジャスティン・ビーバー(Guerin Charles/ABACA/共同通信イメージズ)
《その服どこで買ったの?》衝撃チェンジ姿のジャスティン・ビーバー(31)が“眼球バキバキTシャツ”披露でファン困惑 裁判決着の前後で「ヒゲを剃る」発言も
NEWSポストセブン
2025年10月末、秋田県内のJR線路で寝ていた子グマ。この後、轢かれてペシャンコになってしまった(住民撮影)
《線路で子グマがスヤスヤ…数時間後にペシャンコに》県民が語る熊対策で自衛隊派遣の秋田の“実情”「『命がけでとったクリ』を売る女性も」
NEWSポストセブン
(時事通信フォト)
文化勲章受章者を招く茶会が皇居宮殿で開催 天皇皇后両陛下は王貞治氏と野球の話題で交流、愛子さまと佳子さまは野沢雅子氏に興味津々 
女性セブン
各地でクマの被害が相次いでいる(右は2023年に秋田県でクマに襲われた男性)
「夫は体の原型がわからなくなるまで食い荒らされていた」空腹のヒグマが喰った夫、赤ん坊、雇い人…「異常に膨らんだ熊の胃から発見された内容物」
NEWSポストセブン
雅子さま(2025年10月28日、撮影/JMPA
【天皇陛下とトランプ大統領の会見の裏で…】一部の記者が大統領専用車『ビースト』と自撮り、アメリカ側激怒であわや外交問題 宮内庁と外務省の連携ミスを指摘する声も 
女性セブン
相次ぐクマ被害のために、映画ロケが中止に…(左/時事通信フォト、右/インスタグラムより)
《BE:FIRST脱退の三山凌輝》出演予定のクマ被害テーマ「ネトフリ」作品、“現状”を鑑みて撮影延期か…復帰作が大ピンチに
NEWSポストセブン
名古屋事件
【名古屋主婦殺害】長らく“未解決”として扱われてきた事件の大きな転機となった「丸刈り刑事」の登場 針を通すような緻密な捜査でたどり着いた「ソフトテニス部の名簿」 
女性セブン
今年の6月に不倫が報じられた錦織圭(AFP時事)
《世界ランキング急落》プロテニス・錦織圭、“下部大会”からの再出発する背景に不倫騒と選手生命の危機
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる(左/時事通信フォト)
《空腹でもないのに、ただただ人を襲い続けた》“モンスターベア”は捕獲して山へ帰してもまた戻ってくる…止めどない「熊害」の恐怖「顔面の半分を潰され、片目がボロり」
NEWSポストセブン
カニエの元妻で実業家のキム・カーダシアン(EPA=時事)
《金ピカパンツで空港に到着》カニエ・ウエストの妻が「ファッションを超える」アパレルブランド設立、現地報道は「元妻の“攻めすぎ下着”に勝負を挑む可能性」を示唆
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さんの胸キュンワンシーンが話題に(共同通信社)
《真美子さんがウインク》大谷翔平が参加した優勝パレード、舞台裏でカメラマンが目撃していた「仲良し夫婦」のキュンキュンやりとり
NEWSポストセブン
兵庫県宝塚市で親族4人がボーガンで殺傷された事件の発生時、現場周辺は騒然とした(共同通信)
「子どもの頃は1人だった…」「嫌いなのは母」クロスボウ家族殺害の野津英滉被告(28)が心理検査で見せた“家族への執着”、被害者の弟に漏らした「悪かった」の言葉
NEWSポストセブン