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眠れる巨象・農林中金が「日本の景気は復活する」と宣言

兜町にもどめよきが広がった

「あの“巨象”が起き上がった」──兜町にそんなどよめきが広がっている。投資家たちが驚いた理由は、11月26日に農林中金総合研究所が発表した「金融市場」(12月号)の情勢判断レポートだ。

 JA(農協)、JF(漁協)など農林水産業者の共同組合の資金を運用する農林中金が有する運用資金は約61兆円。132兆円の資金量を誇るGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)に次ぐ規模の日本有数の機関投資家だ。

 だが、農林中金は「農林水産業者への安定的な収益還元」を謳い、61兆円のうち約64%を債券で運用し、株式比率は6%に過ぎない。市場関係者からは「資金規模は大きくても運用姿勢は“草食系”だから株価や市場に与える影響は限定的」と評され、その“鈍さ”が「眠れる巨象」と呼ばれてきた所以でもある。

 ところが、件のレポートには巨象らしからぬ“肉食ぶり”を感じさせる表現が並んでいる。まず、米大統領選でのトランプ勝利をこう分析する。

〈金融市場では「トランプ勝利なら円高・株安」という見方が有力で、実際に結果判明前後の日本市場ではそういう動きが強まった。しかし、トランプ氏の勝利宣言が、分断された国民の再団結や積極的な財政政策などによる経済立て直しに努力することを約束する内容だったことから、世界経済が陥ったかにみえる「持続的な低成長・低インフレ状態」から抜け出せるとの期待が強まり、先進国市場では概ね「株高・ドル高・金利上昇」となっている〉

 国内景気は〈薄日が差し始める〉として、楽観的な見通しを述べている。

〈緩やかながらも世界経済に回復傾向が出てきたことに加え、円高圧力が和らいだこともあり、最近は生産・輸出の回復も見られている。

 実際、7~9月期のGDP統計からはそうした状況を確認することができる。実質経済成長率は前期比年率で2.2%と、0%台と想定される潜在成長率を大きく上回ったほか、水準的にも直近ピークの2014年1~3月期並みまで戻った〉

 日本経済の懸案として〈民間消費の停滞はかなり異様〉と指摘するものの、〈最近は残業代の回復につながる所定外労働時間の下げ止まりの兆しも散見されるほか、冬季賞与は夏季賞与に続き、前年比で増加に転じる可能性が強まるなど、材料は揃ってきたといえる〉と、今後は消費の持ち直しが始まると予測する。

 そうした状況を踏まえて、〈世界経済の下振れリスクは後退しつつあり、リスクオンの流れが盛り返していく可能性が高いだろう〉と結論づけているのだ。

 リスクを回避する投資をモットーとする金融機関から「リスクオンの流れ」という言葉が飛び出したことに、投資家たちは「あの農林中金まで……」と驚いたのである。

※週刊ポスト2016年12月16日号

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