◆今が幸せなら過去が悪いわけはない
娘たちが思春期になると、男を料理で釣るのは相手を甘やかすだけ、カネは男に払わせろなどと持論を教授し、〈ママは失敗したからいうてるんやで〉と言う。〈失敗して、すごすごと戻ってきて、かっこ悪いのみんなに見せてるやろ。ママに棚はないで。地べたにゴザ敷いて並べて、全部さらして生きてるんや〉
また、〈あんたが思うことが、あんたの正義やさかいな〉〈ママはママ、あんたはあんたや〉とも言い、親子でも人格は別、世間はもっと別とばかりに、人1人が自由に毅然と生きる心得を全身で体現するのだった。
「私の母も男と別れた時はつらい決断をしただろうし、先日も姉と話したら、母は世間的には相当酷い親だったし、私たちも可哀相な子供だったよねって。ただ死んだ人ってどうしても美化される部分があるし、悪い思い出はイイ思い出に上書きされてしまう。母が死んで20年、父が死んで2年が経ちますが、私が今幸せでいる以上、過去が悪いわけないんですよね。母と父といた時代を、書きながら浄化していく感覚でした」
ママが腸閉塞で倒れ、呆気なく死んだ時、保美は病院を訴えることも考えた。が、〈怒っているほうが、悲しんでいるより、人は動ける〉〈でも、それだとなんか心が固くなってしまう〉〈だったら、悲しみを怒りに変えるほうが楽かもしれないけれど、悲しいほうがいいじゃないか〉と思う。
そしてママの口癖、〈これでいいんだ〉を繰り返し、悲しみを丸ごと抱えて前に進む姿は、パパが〈おまえ、ママに似てきたわ〉と言うようにママそっくり。それこそ『新・陽転思考』等で和田氏が説く考えの端々にも、ママは生きていた。
「私も本書を書いて気づいたんですけどね。影響なんて言葉じゃ足りないくらい、今の自分を形作る全てが、母によって作られていた。母は人の悪口を言わないし、とことん自由な人で、何があってもひたすら明るかった。そして人は悲しみを抱えながらでも生きていけるんだということも、私は母から教わったんです」
愛する母親をこんな形で弔うことができて、彼女はつくづく果報者だ。その自由で嘘のないみんなのママの人生は、読む者を魅了して離さないのだから。
【プロフィール】わだ・ひろみ/京都府生まれ。京都光華女子大学英文学科卒。外資系教育会社でフルコミッション営業職として、成約率98%、世界142か国中第2位の好成績を収め、東京支社長等の要職に就くが、その後同社が撤退。2003年『世界No.2営業ウーマンの「売れる営業」に変わる本』でデビューし、『営業脳をつくる!』『人に好かれる話し方』『人生を好転させる「新・陽転思考」』等、累計部数は200万部超。京都光華女子大学キャリア形成学科客員教授。160cm、A型。
■構成/橋本紀子 ■撮影/内海裕之
※週刊ポスト2016年12月16日号