1章「わたし、小学生」から終章「わたし、社会人」まで、保美の成長と家族の変遷を綴る本書では、借金まみれの〈宮田〉と出奔したり、妻子ある〈久万さん〉と恋に落ちたり、常に色恋沙汰の絶えないママの奔放さと人生教訓が印象的だ。
「実は私、自分で読むのは8割が小説で、宮本輝さんの『流転の海』なんて、熊吾や父親の『背中を押される言葉集』を書き出しているくらい好きなんです。同じ言葉でもビジネス書で読むより、小説の中の生きた台詞で読む方が、より心に響く部分もありますし」
〈春日駅〉に程近い商店街に昼は喫茶店、夜はスナックになるママの店はあった。洋服屋を経営するパパとは生活費を折半し、娘たちは〈ママのもの〉である米をパパが勝手に食べないように〈象のマークの炊飯器〉を隠したりもした。
夕食までを店で過ごし、姉が部活で遅い日はママが用意してくれたご飯を1人で食べる保美は、可哀相だなんて誰にも思われたくない。友達と遊んだ帰り、その母親が持たせたタッパーを捨てた保美は、たとえ冷たくてもママのご飯を食べることを選ぶ少女だった。
「母の献立には脈絡がなくて、なぜ焼魚にハンバーグ? とか、必ず一品、余計なんです(笑い)。でも今は、魚だけじゃなくお肉もあった方が喜ぶかなという、母なりの愛情だったとわかります。同情されたくないという台詞も、貴女は将来幸せになれるし、可哀相なんかじゃ全然ないよって、私が幼い私に言ってあげたかったのかもしれません」