近年はミュージカルに挑戦、『王様と私』は当り役になった。
「初めてブロードウェイに行った時、英語が分からないのに凄く楽しかったんですよ。歌と音楽でこれだけ楽しいのか、と。『感じる』ということの大切さを知りました。
舞台と映像では、演じ方は変わるかもしれませんね。舞台はその都度で観客の反応が違うので。『これが面白いんだ』とお客さんに教えてもらう時があります。稽古中と本番では、ウケるところが違うんですよ。もちろん、あまりオーバーにやると芝居全体がおかしくなりますが、意識はします」
時代劇は製作本数も減り、苦しい状況が続いている。そうした中にあって、松平は主役だけでなく近年は時代劇で脇役でも登場、第一線に立ち続ける。
「時代劇を残していってほしいと思います。時代劇はお金がかかる。これはしょうがないです。それにカメラも感度が上がってきて、地毛を使った総髪の設定が多くなってきました。でも、それでは綺麗な時代劇にはなりません。極端な変え方はしてほしくないんですよね。このまま本数が減って、結髪にしても、美術にしても後継者がいなくなってしまうのが心配です。
それは役者も同じです。所作にしても、大河ドラマでしたらご指導の先生が付きますが、なかなか個人個人の細かいところまでは目が届かないんですよ。それで僕も少しアドバイスすることもありますが、監督もいますからね。そこまで出しゃばっていいのか。役者自身が役によっての所作を自分自身で意識してくれたらいいなと思います」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
◆撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2016年12月16日号