「なぜ監督はそんなに優しいんですか」という私の問いに、監督は「僕はね、そっち側なんだなという自覚があるんですよ」と返した。「そっち側」というのは、理不尽や暴力を受ける側の人々である。そしてそれに決して屈しない人々の側でもある。

「仕事に恵まれず、地べたに近いところにいたから、高所から物を見るのは向いてないんです(笑)」

 製作段階は長い道のりだったという。第一段階としてまず5分間のパイロットフィルム完成に必要な製作費2000万円を目標に、日本史上初のクラウドファンディングによる支援者募集を行う。結果、計3374人の支援者から3622万円を集めた。足掛け6年を経て日の目を見た本作は、その製作過程のユニークさひとつとっても、日本アニメ史上の分水嶺になろう。

 ふたつ自慢を書く。ひとつは監督と私は7年前に一度面識がある。監督の過去作『マイマイ新子と千年の魔法』(2009年)の私設応援団の末席にいた当時一介のアニメブロガーに過ぎなかった私は、監督に恐る恐る名刺を渡したのだが、そのことを監督は覚えていて下さっていた。

 ふたつめは東京MX『モーニングクロス』にて、地上波ではほぼ初めて私がこの作品の本格的紹介をしたという事実だ。子々孫々までこの栄誉を伝えようと思う。映画のチラシには「100年先も伝えたい珠玉のアニメ」と謳い文句がある。ご謙遜だろう。100年どころか、この地球(ほし)に私たち人類が生き続ける限り、『この世界の片隅に』は不滅の光点となって、永遠(とわ)に輝き続ける。

 この冬、劇場で何を見ようか迷っている貴方。『この世界の片隅に』一択である。いますぐ。これは単にアニメとか映画を観る行為ではない。いま私たちは時を超え、主人公すずさんの生きた時代と地続きになる。

【プロフィール】ふるやつねひら1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。主な著書に『左翼も右翼もウソばかり』『ヒトラーはなぜ猫が嫌いだったのか』。最新刊は『草食系のための対米自立論』。

※SAPIO2017年1月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

大谷翔平選手、妻・真美子さんの“デコピンコーデ”が話題に(Xより)
《大谷選手の隣で“控えめ”スマイル》真美子さん、MVP受賞の場で披露の“デコピン色ワンピ”は入手困難品…ブランドが回答「ブティックにも一般のお客様から問い合わせを頂いています」
NEWSポストセブン
佳子さまの“ショッキングピンク”のドレスが話題に(時事通信フォト)
《5万円超の“蛍光ピンク服”》佳子さまがお召しになった“推しブランド”…過去にもロイヤルブルーの “イロチ”ドレス、ブラジル訪問では「カメリアワンピース」が話題に
NEWSポストセブン
「横浜アンパンマンこどもミュージアム」でパパ同士のケンカが拡散された(目撃者提供)
《フル動画入手》アンパンマンショー“パパ同士のケンカ”のきっかけは戦慄の頭突き…目撃者が語る 施設側は「今後もスタッフ一丸となって対応」
NEWSポストセブン
大谷翔平を支え続けた真美子さん
《大谷翔平よりもスゴイ?》真美子さんの完璧“MVP妻”伝説「奥様会へのお土産は1万5000円のケーキ」「パレードでスポンサー企業のペットボトル」…“夫婦でCM共演”への期待も
週刊ポスト
結婚を発表したPerfumeの“あ~ちゃん”こと西脇綾香(時事通信フォト)
「夫婦別姓を日本でも取り入れて」 Perfume・あ〜ちゃん、ポーター創業の“吉田家”入りでファンが思い返した過去発言
NEWSポストセブン
(写真右/Getty Images、左・撮影/横田紋子)
高市早苗首相が異例の“買春行為の罰則化の検討”に言及 世界では“買う側”に罰則を科すのが先進国のスタンダード 日本の法律が抱える構造的な矛盾 
女性セブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
【本人が語った「大事な存在」】水上恒司(26)、初ロマンスは“マギー似”の年上女性 直撃に「別に隠すようなことではないと思うので」と堂々宣言
NEWSポストセブン
劉勁松・中国外務省アジア局長(時事通信フォト)
「普段はそういったことはしない人」中国外交官の“両手ポケットイン”動画が拡散、日本側に「頭下げ」疑惑…中国側の“パフォーマンス”との見方も
NEWSポストセブン
佳子さまの「多幸感メイク」驚きの声(2025年11月9日、写真/JMPA)
《最旬の「多幸感メイク」に驚きの声》佳子さま、“ふわふわ清楚ワンピース”の装いでメイクの印象を一変させていた 美容関係者は「この“すっぴん風”はまさに今季のトレンド」と称賛
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が真剣交際していることがわかった
水上恒司(26)『中学聖日記』から7年…マギー似美女と“庶民派スーパーデート” 取材に「はい、お付き合いしてます」とコメント
NEWSポストセブン
ラオスに滞在中の天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《ラオスの民族衣装も》愛子さま、動きやすいパンツスタイルでご視察 現地に寄り添うお気持ちあふれるコーデ
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン